理事長ブログBlog
【若手Dr・DH向け】「患者様に寄り添う」ってどういうこと?
知人の若手歯科医師から質問されたのでお伝えします。
「患者様に寄り添う」ってどういうことですか??
「自分の良いって思う治療を院長がさせてくれないんです。」
衛生士さんからもよく聞きます。「うちの院長は、歯を抜かないんです。」
今回は、これに対してお答えしていこうと思います。今回の内容が、納得、腹落ちできると、患者様への治療提案は受け入れられ、自分の考える本当に良い治療を実践することができるようになって行きます。
医院で、良いと思う治療をさせてくれない、院長がなんでそういう治療方針をとっているかわからない、こういう疑問も全て解決できます。
今は、まだ腑に落ちてなくて、もやもやしている、その気持ちはすごくわかります。
若手の時は、一つ、この治療ができたら、それをしてみたい。
こういう治療方針が正しい、と聞いたら、それが正しく、それをしないのは正義じゃない。
この気持ちもよくわかります。
それは間違いではありません。
ただ、あくまでこれは、術者サイドの考えです。
EBMでもそうですが、最終的な治療方針の決定は、
(1)医学的妥当性、(2)実践できる環境があるか、(3)患者様の希望、(4)術者の技能、この4つが交わるところが、真のEBMですよね。
どうようにこの4つを満たす医療が、提供すべき医療になります。ここでは、「患者様に寄り添う」ということに関して5つの観点から考察していきたいと思います。ぜひ参考にしてもらえたらと思います。
☆人と問題の分離(臨床上の理想と、患者様の現実を分離する
☆心に寄り添う
☆決断に時間をかける
☆患者様の治療への取り組みを把握する(治療希望チャートを使用する)
☆患者様の人生の時間軸で考える
☆人と問題の分離(臨床上の理想と、患者様の現実を分離する)
患者様が○○と言ったからこのような治療をした。
本当はこういう治療をしたいのに、患者様が同意してくれない。
数年くらいの臨床歴の歯科医師、衛生士さんで多い意見です。
なぜそれが分かるかっていうと、自分もそう思っていたからです。どうして、そういうと思いますか??
本当にそれで良いのですか??
私はよく聞きます。どういうベストを提示したの?なにが良い治療?
言われると、ぽかんとする衛生士さんや若手歯科医師もいます。ここなんですね。理想と現実。まず大切なのは、理想。どうなると良いのか、ここがないと行けないんですね。それなくして、患者様に治療をしているのは、ただの行き当たりばったりの治療。
どういう治療法がベストか、を踏まえた上で、この患者様の望みが○○だから、こうしました。これが大切です。現実の保険診療も含めた歯科治療をする上では。
でもこれ、案外教えてくれないんですね。大学病院やスタディーグループでは理想の治療だけができます。しかし地域医療はそれだけでは成立しないんですね。勉強すればするほど分からなくなります。
私自身、あまり歯牙をぬいたり積極的治療をしません、またそうかと思うと、驚くほど積極的に治療を進めます。
これは一体なぜでしょう???
よくわかっていない人は、院長の気分かな??って思うかもしれません。違うんです。
理由があるんですね。
ここがわからない術者は、人と問題の分離ができていないんですね。
人と問題の分離これがまず第一番です。
この歯は抜かないといけないということは、歯科医師だと分かると思います。
そこでついつい、抜歯に強引に誘導してしまうことがあるんですね。歯科医学的に正しいことだから歯科医師にはわかりますよね。
ただ、そう思う時に大きなトラブルがおこります。そして、それは、歯科医師の知らない形で終わっていきます。つまり、患者様が来院されなくなる、ということです。
慣れてきたら、慣れてくるほど、手を付けないことも大切です。
歯科医院での治療でよく聞くことがあります。勝手に削られた。痛くない歯牙を抜かれた。
歯科医師として当然、削る場面がある、現在痛くない歯牙でも抜いたほうがいい状況もあります。
「人と問題の分離」
「問題」として、医学的問題点として、抜歯適応の歯牙がある、ということと、現実的にその眼の前の患者様「人」がその治療を今臨んでいるのかということを分けて考えましょう。
理事長の本当に大切にするもの。
どうしたらいいか伝えます。
歯科医学的妥当性を伝えた上で、決めるのは、患者様です。
原点は、「患者様の望むことをする」です。
歯科治療の医学的ベストはある程度決まっています。
骨格的な不正がない場合。健全な心身の場合。経済的・時間的余裕があれば。
長期的予後が見込める自分の歯牙を最大限残し、歯列不正を取り除き、正中をあわせ、強固な臼歯部のバーティカルストップを確立し、適切なアンテリアガイダンスを確保し、炎症のコントロールがし易い口腔内の状態を確立し、長期的メインテナンスにてその状態を維持する。
シンプルなことです(実際は一つ一つは高度な歯科技術が必要ですが)。
しかし現実的にそれを難しくしているのは、患者様の将来への臨み、希望、時間/経済的な現実的な制約です。
この「問題」とそこからの治療と、現実的に治療を受ける「人」を分けて考える。
これが「人と問題の分離」です。
患者様の置かれている環境・現実と、歯科医学的な問題点とその解決策をわけて考える必要があります。
医学的にただしいから、これが最良だからといって、抜歯を撰択することが、臨床の現場では正しいのではありません。
当然、歯科医療従事者として、長期的予後を見越した解決策はこうである、と伝えることが大切です。そして、そこから先は患者様の現実的な状況を踏まえて、決定している必要があります。
この「人と問題の分離」に関しては、栗原先生の「若手臨床医サブノート」にも詳しく記載されていますので、ぜひ一読をおすすめします。
☆「心」に寄り添う
術者としてのあなたの治療は、患者様の「心」に寄り添っていますか?その医療従事者としての正しさ、意思決定を押し付けていませんか??
「心」です。「感情」や「気持ち」に寄り添っていますか?頭や理性に寄り添うんじゃないんです。
志結会では、全スタッフが守っている信条に、「私達は、プロフェッショナルチームとして患者様の心に寄り添う歯科医治療を実践します」ということを掲げています。ただ治療をしたらいい、としていないんですね。
患者様の、納得、安心、決心、決断を重要視しています。
例えば、よくあるケースで、、
右下第一大臼歯が歯根破折しています。しかし今症状はない。
現在咬合調整で、バイトを落として当たりにくくしています。
ベストは、抜歯と、強固なバーティカルストップを確立する欠損補綴を行う。
でも患者様は、抜歯をためらっている。
残存させるリスクが当然あります。骨の吸収、今後の治療肢が減る。
若手Drのよくあるお悩みケースです。
理想・ベストはわかっているんです。でも患者様の同意が得られない。こういう状況に悩むんですね。
よくわかります。私にも同じ経験がありました。
今、答えは出ています。最終決定は、患者様。それに寄り添うこと。もちろん、情報提供を行います。抜くメリット・デメリット、抜かないメリット・デメリット。
最終的にどうするのか選ぶのは患者様の決意のもとです。歯科医学的には、抜歯したほうがいいのは、疑いようがありません。なんの迷いもありません。しかし、どう寄り添えるか、心に寄り添えているかが問題なんです。
医療従事者にとっての歯牙だから、この問題が見えないんですね。
擬人化した例え話です。もしこれが、自分の大好きなおじいちゃんだったらどうでしょう?いつも優しかった大好きなおじいちゃんが、入院して脳死の状態になってた。その時、もし担当医が「もう意識戻らないんだから、生きてても仕方ないでしょ」って言ったらどう思いますか?この先生を信頼できないでしょう。私もそう思います。
歯でも同じです。歯科医師・歯科衛生士にとっては、ただの1本の抜かないといけない歯かもしれないですが、患者様にとっては、これまでの人生をずーっと24時間片時も離れずいた大切な歯牙です。ご飯を食べるときも、喋るときも、遠足に行ったときも、つねに365日24時間つねに一緒にいた、大切な大切な、自分の人生の一部分なんです。
その歯牙の人生を決める、お別れを決断をすることを、軽く考えてはいけません。
そしてこの大事さを医療従事者に理解していなくて、強引に歯科医学的妥当性を押し付けて抜歯をしたケースで、よくあるトラブルをたくさん経験してきました。
そう、「あそこの歯医者で、勝手に歯を抜かれた」という表現ですね。
歯科医師として、そんな勝手に抜かないだろって思うけど、それは、患者様の納得が無いからそういう表現になるんですね。表現として、「抜いてくれなかった」、ではなく、「抜かれた」ってなるんですね。ここ非常に大事です。「歯科医師タルマエ二人間タレ」血脇守之助先生の言葉思い起こされますね。
大切なのは、「患者様の納得と決意」なんですね。
それがないうちに、(歯科医学的に正しい)抜歯をするから、トラブルになるんですね。
歯医者をしていると、本当によく聞きます。「前の歯医者で歯を抜かれた。」「抜かれた」なんですね。「抜いてもらった」じゃないんですね。これは患者様の気持ちに寄り添っていない状態だと思います。
志結会では、患者様の気持ちに寄り添うために「トリートメントコーディネーター」が在籍しています。本当に納得して治療を受けてもらうために。気持ちを尊重するために、適切な情報提供をするために、少しの勇気を与えるために。
人生に寄り添う。人生の希望順位を明確にする.
これが志結会では、TCの役割です。
そして、患者様が納得、決心した場合のみ(抜歯など)積極的治療を行います。
これが志結会で「寄り添う」ということです。これも一つの世界最高水準のホスピタリティだと考えています。寄り添えるということ。アメリカでは不可能な、日本の保険医療制度だからできる素晴らしい仕組みです。
志結会は、トリートメントコーディネーターが頑張ってくれているので、勤務医はその分治療に集中できます。歯科医師にとって非常に素晴らしい環境が整っています。
トリートメントコーディネーターが心がけていることで、すこし若手Dr、DHさん向けにおすそ分けします。ぜひ、勤務医、衛生士さんは、患者様の本当の気持ちを聞いてみましょう。家庭背景、社会背景、日常生活に想いを馳せて会話をしてみましょう。その患者様の人生の価値観を知りましょう。そして、その気持に寄り添い、専門家として、何が長期的予後にとって良いのか、経済的・精神的判断の材料を提供しましょう。そして患者様の決断を後押しして上げましょう。そうしたら、ひとつ上の治療ができます。また自分の思った理想とする治療ができるようになります。
あなたが、さらに患者様と信頼関係を構築したら良いんです。それが医療者の姿だとも思います。1回ごとの来院のたびに、患者様のデンタルIQを上げていくことだと思っています。
志結会でも普通にあります。メインテナンスの中で、これまで勇気を出せなかった全顎治療に踏み切った患者様は、多くいらっしゃいます。これは、信頼関係が結べている証拠で、患者様のデンタルIQが上がっている結果なんですね。
ぜひ、患者様に寄り添う、そして治療へ勇気づけてあげましょう。
☆決断に時間をかける(決断を急がせない)
裏を返すと、決断を急がしません。私達は医療者です。営業では、決断を急がせます。気持ちが変わらないように。
私達と、患者様は、生涯の付き合いを考えています。今無理に契約を結ばせることは、長い付き合いの中で、決していい結果にならないことを知っています。
本当に患者様のことを考えたら、他の歯科医院でのセカンドオピニオンも推奨します。
しかし、人生の中で、今しておいたほうがよい、という時期には、その決断を後押ししてあげます。
☆患者様の治療への取り組みを把握する(治療希望チャートを使用する)
何より大切なのは、患者様の希望です。志結会ではこれを把握するために、治療希望チャートを初診・再初診時に記入していただいています。
歯科臨床を追求し、歯科医学的な長期安定して審美性も高い治療、となると、大部分のケースで、矯正治療、インプラントを含んだ欠損補綴、セラミックを含む修復処置が必要になってきます。
しかしすべての患者様がさまざまな現実のなかで、全員それが可能ではありません。
それを知るために、治療希望チャートを記載してもらっています。
不正咬合を治したい・しっかりとインプラントも含めて噛めるようになりたいか、相談をしたいか。、
保険診療の範囲内で治したいのか。
それとも痛いところだけ治したいのか。
患者様の希望を逸脱したことはしません。
この希望は常に意識しています。志結会では、本当に患者様のことを考えて、デンタルIQを1ステージ上げることを目標にしています。ただし、この一連の流れのなかで、
歯科医師は分かると思いますが、自分にとって良いと思う治療って大体決まって来ると思います。そう、メインテナンスに通ったほうがいい。1歯デンチャーより1本のインプラントのほうがいい。不正咬合があるより、個性正常咬合のほうが歯の寿命を伸ばせる・治療介入の頻度がすくない。知っているんです。
一つデンタルIQのステージを上げてあげましょう。
☆患者様の人生の時間軸で考える
医療法人志結会では、7つのビジョンの一つに、患者様の一生涯を通じて歯科治療を提供するということを掲げています。
つまり、その場だけの治療をしないようにしています。なので、伝えるようにします。この治療は残すのを難しい歯牙をのこしているときそのことを伝えます。
予知性の良い治療をしようと思ったら、抜歯が必要でも、もしまだ患者様が、まだ心の準備ができていないなら、決断するまで待ちます。
それを念頭に説明をします。
若手Dr、DHでよくあるのが、「今」しか視えないということですね。時間軸の中で考えられない。とくに、何箇所も転々としている術者によくありがちです。自分の治療しか視えてないんですね。そして、その治療経過も視えてないんですね。そんな先生が、患者様の人生軸、まったく視えてないんですね。
その治療は今するべきでしょうか?これからの患者様の人生10年を考えた時、いつがいいでしょう。
人生の中で、予後不良歯と言われるその歯牙と寄り添うことも大切だと思っています。そのようなとき自由診療をあまり選びません。
日本では、補綴物維持管理料というものがあります。2年持たないとしたら、適応できません。しかしクエスチョナブルであれば、残すことも選択肢にいれることができます。将来日本の財政がさらに厳しくなったら、これも難しくなるかもしれません。
信頼関係を構築して、患者様の人生を考えた時、治療介入をしていく!患者様がその決断ができた時、一緒に治療を頑張っていく、これが、一流の医療者のあるべき姿だと思います。
最後に、
さて今回は、患者様に「寄り添う」ということを見てきました。
いかがだったでしょうか?
歯科医院ごとに、医院の目指すべき理念とビジョンがあります。それに合致したことが医療法人ごとに実践されています。
志結会では、医院理念・7つのビジョンに基づき、実際には患者様の希望チャートを踏まえ、自由診療から、保険診療までの選択肢を提示し、トリートメントコーディネーターが患者様の心の寄り添って、プロフェッショナルチームとして医療を提供しています。
興味のある若手Dr・衛生士さんは、一度見学にきて診てもらえたらと思います。本当に患者様のことを考えた医療を見ることができると思います。一生の糧になると思います。