理事長ブログBlog

9182023
臨床・症例について

【若手歯科医師向け】保険診療が正しく、自由診療は悪か?それとも、自由診療が正義で、保険診療は害か?

勉強会にも積極的に参加する若手Dr向けから、こういう意見を聞きました。という歯科医院は、保険診療で治療を適当にして、大量にぶん回している。ちゃんと治療をしていると思えない!」

また他の開業されている院長先生からこういう意見を聞きました。という歯科医院は、保険診療をせずに自由診療しかやらない金の亡者だ!」

自由診療を中心に据えた歯科医療を提供する歯科医院、保険診療を中心に据えた歯科医療を提供する歯科医院に大きく分けられます。

今回はタイトル「保険診療が正しく、自由診療は悪か?それとも、自由診療が正義で、保険診療は害か?」という内容に関しての、私の想いを書いていきたいと思います。

これは、10件以上の歯科医院で働き、50件以上の歯科医院を見学し、50人スタディーグループの先生、100人以上の開業医の先生・100人以上の勤務医の先生と話をしてきた内容をベースに、良い歯科医院とは?という観点で執筆しています。

 

はじめに

さて、どっちが正しくて、どちらかが間違っているのでしょうか?

先に私の意見を伝えておきます。

私の意見は、「患者様の本当の望みを聞き、患者様の望みを歯科医学的妥当性を持って叶える。」

もう少し詳しく伝えると、EBMの4本の柱、これが医療者のとるべき姿勢だと思っています。

つまり、

(1)最良の医学的根拠、(2)臨床の経験と専門知識、(3)臨床状況と資源、(4)患者の価値観と希望、にもとづいて歯科医療を実践すること」といえます。

この4つを見てみます。

(1)最良の医学的根拠とは、ランダム化比較試験(RCT)や系統的レビュー、メタアナリシスなどの高品質な研究結果を指します。これは、治療法や診断法の有効性を科学的に評価する上で非常に重要な要素です。

(2)臨床の経験と専門知識とは、歯科医師や他の医療従事者が日々の臨床で蓄積してきた知識や経験です。これは、各患者の状況やニーズに合わせて適切な判断を下す上で欠かせない要素です。

(3)臨床状況と資源とは、治療や診断を行う際の具体的な状況や、使用可能な資源(例:診療設備、薬剤、人材など)を考慮することです。病院や診療所の状況、地域の医療資源、費用対効果などの要素が含まれます。

(4)患者様の価値観と希望とは、医療の受け手である患者様の価値観、希望、期待、そして生活の質に関する考え方や意向です。これを考慮することで、患者様中心の医療を実践することができます。そしてこれがもっとも重要だと考えています。

これらの4つの要素をバランス良く組み合わせることで、各患者に最も適した医療を提供することがEBMの目的です。

保険診療が正しく、自由診療は悪か?また、自由診療が正義で、保険診療は害か?

歯科医師として臨床の勉強すればするほど、また地域医療に従事すればするほどこの命題にぶつかります。

次に、自由診療と保険診療のそれぞれとそのメリットとデメリットについて見ていきたいと思います。

自由診療とそののメリットとデメリット

(1)自由診療とは?

自由診療とは、公的保険の適用外で行われる歯科医療のことを指します。つまり、治療内容や治療料金が国や地方自治体の定める基準に縛られず、歯科医院ごとに自由に設定できるものです。

(2)自由診療のメリット

  • 最先端の治療: 公的保険がカバーする治療は限られていますが、自由診療では最新の技術や材料を取り入れることが可能です。例えば、インプラント治療や矯正治療、審美歯科での最新の治療法などが挙げられます。
  • 多様な選択肢: 患者様の希望に合わせて、様々な治療法や材料から選べる自由があります。右下6の欠損補綴に対して、保険診療であれば、金属のクラスプでの義歯、金属ブリッジ、一部の歯牙移植しか提示できませんが、自由診療であれば、インプラント治療、ノンクラスプデンチャー、審美性の高いブリッジ、歯牙の移動による欠損スペース閉鎖を目的とした矯正治療、幅広い歯牙移植を提示することができます。これにより、個々のニーズや予算に合わせたオーダーメイドの治療を受けることができます。
  • 充実したサービス: 自由診療では、より質の高いサービスを提供することができます。例えば、診療時間の確保、ゆったりとした治療環境など、患者様の快適さを高い次元で配慮された診療が可能です。

(3)自由診療のデメリット

  • 高額な治療費: 最大のデメリットとして、公的保険の適用を受けられないため治療費が高くなることが挙げられます。そのため、費用面での負担が増えることを検討する必要があります。
  • 情報収集の必要: 料金や治療内容が歯科医院ごとに異なるため、患者様自身で情報をしっかりと収集し、信頼できる歯科医院を選ぶ必要があります。
  • 治療の保証: 公的保険の枠内で提供される治療は、一定の安全性や効果が確認されています。しかし、自由診療では(薬事認可は受けているものの)その限りではない治療も存在するため、十分な情報収集と歯科医師とのコンサルテーションが必要です。

自由診療は、最新の治療や多様な選択肢、質の高いサービスを受けることができる一方で、費用や選択の自由度が増す分、患者様自身の判断や情報収集が求められます。治療を受ける前に、本当の自分のニーズを確認し、必要な情報を得て、自分のニーズや希望に合った診療を選択することが大切です。

保険診療とは、

(1)保険診療とは?

保険診療とは、日本の公的健康保険制度がカバーする範囲内で行われる医療・歯科医療のことを指します。治療内容や治療料金は、国や地方自治体が定める基準に基づいて決定されます。

(2)保険診療のメリット

  • 経済的な負担の軽減: 最大のメリットは、治療費用の大部分が公的保険でカバーされる点です。患者様は一部の自己負担のみで治療を受けることができ、これにより多くの人々が医療サービスを利用できるようになっています。
  • 安全性の確保: 保険でカバーされる治療は、一定の安全基準と効果が確認されています。これにより、患者様は安心して治療を受けることができます。
  • アクセスの容易さ: ほとんどの歯科医院で保険診療が受けられるため、日本では多くの地域でアクセスしやすいのが特徴です。

(3)保険診療のデメリット

  • 治療の選択肢の制限: 公的保険がカバーする治療は限定されています。最新の治療法や材料、高度な技術要求がなされるものには使用されない場合があります。これにより、最先端の治療や高度な治療技術を希望する場合、自由診療を選択する必要が出てくることもあります。
  • 待ち時間の増加: 多くの人々が保険診療を利用するため、待ち時間が長くなる、予約が取りにくいことがあります。
  • 一部の高額な治療が除外: 例えば、審美歯科に関連する一部の治療や、特定のインプラント治療・矯正歯科治療など、保険の適用を受けられない治療も存在します。

保険診療は、日本の歯科医療の中心をなすもので、多くの患者様がその恩恵を受けています。その一方で、制限も存在するため、どのような治療を受けるかを決定する際には、それらの特徴をしっかりと理解しておくことが大切です。治療を受ける前に、信頼のおける歯科医師や歯科医院と十分にコミュニケーションをとり、最適な治療方法を選択してください。

一歯科医療法人理事長からみた、日本の歯科医院の傾向

日本の歯科界では、自由診療と保険診療そのどちらかを中心において歯科診療を実践している歯科医院が多いです。医院が大きく二分されています。

医療法人志結会では、地域における1.5次医療機関として、その両方が大切であると考えています。私自身は、保険診療を否定するつもりも、自由診療を否定する気持ちもありません。

そして、若手歯科医師にもその両方に対しての理解を持ってほしいと思っています。ここ大切なところです。

自由診療で人生の喜びを手に入れている患者様がいる、保険診療で人生で望むものを手に入れている患者様がいるからです。

ときどき勉強している先生に保険診療を否定する先生がいたりします。

その気持もわかります。なぜなら、保険診療外まで含めた技術研鑽を積んでいるからです。平日は臨床。土日は学会やスタディーグループでの発表、歯科医師育成、自己研鑽、論文執筆、学会発表。夜は歯科医師仲間との深いディスカッション。365日、患者様のことを考え仕事に取り組んでいます。

そして、そうしない歯科医師が不勉強に見えたりします。

また保険診療を中心に据えて考えている先生で、自由診療を否定する先生がいたりします。

その先生は安全性と、治療の実績と、患者様に経済的負担をかけないことを大切にする先生です。そして地域歯科医療活動に関して真剣に取り組まれている先生も多いです。

自由診療について伝えることより、保険診療の範囲で治せることでの安心感を伝えることに重きをおいている先生もいます。

私の意見。

「患者様の本当の望みを聞き、患者様の望みを歯科医学的妥当性を持って叶える」、これを重要視しています。

EBMの4つの輪をベースに、もう少し詳しく表現すると、

(1)最良の医学的根拠に基づいて、(2)臨床経験と専門知識を用いて、(4)現実の歯科医院という臨床現場と使えるリソースを最大限活用して、(4)患者様の本当の価値観と希望に沿って、実現すること。別の表現をすると、真のEBMを実践する歯科医療を提供する、と言えるかもしれません。

志結会では、7つのビジョンの1つ目に「世界最高水準の医療を提供する」ということを掲げています。これは以下のことに合致していると思います。歯科医療従事者の視点で若手歯科医師に向けてお伝えします。

4つについてそれぞれへの私自身が想いとして乗せている「志結会での取り組み」を見ていきます。

(1)最良の医学的根拠

その治療法の根拠はなんですか?エビデンスを持てていますか??そこには保険診療も自由診療も有りません。そして歯科医学は常にアップデートしていきます。

意識してほしいのはエビデンスピラミッドです。初学者には、非常に参考になります。

だから本当は、システマティックレビューをどんどん読んでいくのがいいと思いますが、、、

そう入っても英語論文自信をもって読めないよ、、、って声も聞こえてきます。

なので、まず臨床の勉強に入りやすいところで、日本語総説、また歯科治療は外科なので技術を真似る(真似ぶ)ということが非常に重要なので、そこにフォーカスすると、

・各学会のガイドラインを読みましょう。そこにある疑問点は、上の先生に聞きましょう。

・毎月『日本歯科医学会雑誌』を読みましょう。これが一番簡単にできる第一歩です。

・クインテッセンスなど商業雑誌を読み、どのような技術・トレンド、着目されている論文があるのか、また世の中にどのような歯科医師がいるのかを知りましょう。臨床上のメンターに出会える可能性があります。

・技術研鑽に関するウェブセミナーを受けてみましょう。歯科医療は外科職です。座学の知識だけでは、実際の患者様への医療提供にまで落とし込めません。「観て学ぶ、観て盗む」も非常に重要です。ただし無料のものには、無料にできる力学が働いていることも知っておきましょう。

・技術に関する研修会に参加し技術習得をしましょう。文字から、動画から。それだけでできるようになる人はあまりいません。本当の意味での技術習得は、その技術を体験することです。これが大切で重要だから、歯科医師向けの研修会が存在します。

・歯科医院で実践をしましょう。歯科医院は、実践の場です。患者様は実験体ではありません。ここ大切ですよ。成書を読む、論文を読む、ガイドラインを読む、練習をする、先輩に結果をフィードバックを受ける、研修を受ける、実習をする、自信をもって患者様に医療を提供する。歯科医院は、自己研鑽を積んだ、最後の実践・表現の場です。

またエビデンスレベルの高い重要な勉強として、余力のある先生は、

・システマティックレビューを読みましょう。現在の到達地点と課題が見えてきます。

・Pubmedを常に見て、自分の関心のある内容に関して、知識をアップデートしましょう。MTAについて気になったら調べましょう。NiTiロータリーファイルに興味を持ったら調べましょう。

・自分の関心のある分野の英語論文誌を定点観測しましょう。ペリオ分野でJCP、JPを定点観測する。歯科全般としてJDRを定点観測するなどです。今はグーグル翻訳の機能も向上してきているので、大意を知るには非常に便利です。

志結会では、最新の歯科医学的根拠に触れれるように、

・ガイドラインへのアクセス、情報提供を積極的に行っています。

「日本歯科医学雑誌」「各種商業誌」へのアクセス

・2000を超える手技・知識の動画研修へのアクセス

・ディスカッションの場を設けています。

(2)臨床の経験と専門知識

・また、各種学会、スタディーグループ、定例会への参加を奨励しています。歯科医院の中だけで勉強が簡潔するものではありません。多くの勉強会や学会で新しい知見はアップデートされ、また定例会で症例相談、症例発表をすることで自分の知見となっていきます。

・志結会では、多くの得意分野を持った歯科医師や他の医療従事者が日々の臨床を実践しています。歯科保存学会専門医、歯周病学会認定医、口腔外科専門医、矯正歯科認定医、多くの分野の得意分野の歯科医師が在籍しています。また、保険診療においても真剣に向き合っている歯科医師も在籍しています。

志結会では、日々の臨床で蓄積してきた知識や経験にアクセス、ディスカッションできるチャンスを作っています。最終的に、各患者の状況やニーズに合わせて適切な判断を下すためにこれら要素が重要だからです。

また、経験ができることを重要視してます。本気で取り組み責任を持つ歯科医師には勤務医でも等しくチャンスを与えます。

(3)臨床状況と資源

・日本最高水準の医療が提供できるように、日本の歯科医院トップ1%の、最新の器材、高度な医療技術を提供できる環境が整っています。

・一例をあげると、マイクロ診療、拡大診療、ラバーダム防湿、インプラントガイドシステム、サイナスリフト・ソケットリフト、Primeスキャン、Primeミル、スピードファイヤーを用いたセレックワンデートリートメント、iTero5D plusを用いた光学印象、インビザライン矯正治療、小児矯正、ワイヤー矯正MTM、訪問診療まで、求める勤務医がアタリマエに実践できる環境があります、それを奨励しています。

極めて特殊な状況を除き、ここだから出来ないということがありません。

(4)患者様の価値観と希望、に基づいていること

もっとも重要なのが、患者様の価値観と希望に添えていることです。

志結会では、ここをもっとも重要視しています。

そして、ここを汲み取る取り組みをしているから、保険診療も自由診療も両立できています。

・初診時の治療希望チャートにそって、患者様の希望する歯科治療を提供できるように配慮します。患者様の求める気持ち・希望を最大限汲み取れるように、そして最大限配慮できる歯科医療を提供するために、初診・再初診時に、治療希望チャートを書いてもらっています。またスマイルガイドを記載してもらっています。患者様の求めるものと歯科医院の提供する医療のミスマッチが起きないように配慮をしています。

・トリートメントコーディネーターによる患者様の本当の価値観と希望を明確化していきます。どんな10年後を暮らしていたいですか?どんな結婚式を迎えたいですか?定年後どんな生活をおくりたいですか?その中で、どんな食事、どんな笑顔でいたいですか?そのために必要な今の治療を共に考えていきます。

・毎治療後に患者様にヒアリングをします。今日の治療の良し悪しを、患者様に伺っています。私達は、患者様が一番の「先生」だと考えています。医療を提供するものとして、その良し悪しを、毎回伺わせてもらっています。それが私達の「誠実さ」であり、「強み」です。

・ほんとうに人生に豊かになる選択肢を提示します。情報提供をするように心がけています。デンタルIQを一つでも上げる。絶対的な真実があります。歯科医院での歯のメインテナンスを受けたほうがいい。歯ブラシではプラークは絶対に取り切れない。フッ素は塗ったほうがいい。一本の歯牙の価値は現在価格で100万円以上する。自分の今の歯の数を知ったほうがいい。患者様の人生を良くする知識を一つの治療サイクルで一つだけでも伝える。情報を知って初めて、さらに良い人生が開ける。

最後に

保険診療が正しく、自由診療は悪か?それとも、自由診療が正義で、保険診療は害か?というタイトルでここまで述べてきました。

保険診療・自由診療という二元論で考えるのではなく、患者様本位で考えることをお伝えしました。

EBMの4つの輪に沿って、患者様の望む最良の医療を提供することが、医療法人志結会のミッションだと考えています。これが、7つのビジョンの1つ目、「世界最高水準の医療を提供する」ことに繋がると確信しています。

医療法人志結会は、この考えの元で、臨床を実践できるから、歯科医師にとっても患者様、地域にとっても価値のある歯科医院だと確信しています。

これは、私自身が、10件以上の歯科医院で働き、50件以上の歯科医院を見学し、100人以上の勤務医と話して来た結論として、自分自身が勤務医の時に働きたかった・働きたい医療法人、歯科医院と環境を創っています。

もし今日の内容に共感できる、興味のある若手Drはぜひ理事長尾崎亘弘までメッセージください!これからの時代でともに成功する歯科医師になりましょう!