理事長ブログ
Blog
抜歯後の骨を守る処置、どこまで期待できるでしょうか
抜歯が必要になったとき、そのあとの治療まで考えておくことは大切です。今回は、若い先生にも患者さんにも知っていただきたい「ソケットプリザベーション」について、期待できることと、まだ分からないことを整理します。
骨の変化を抑えるための処置
歯を抜いたあとは、歯を支えていた骨の形が変わります。ソケットプリザベーションは、抜歯した部分に材料を入れるなどして、その変化を抑えることを目指す処置です。研究では歯槽堤保存術、英語ではARPと呼ばれています。[1]
「骨を保存する」という名前だけを聞くと、元の形をそのまま残せるように感じるかもしれません。実際には、どの程度変化を抑えられるか、追加の処置が必要になるかは、分けて考える必要があります。[1][2]
骨の量と、治療の長期成績は同じではない
2021年のコクランレビューでは、抜歯だけの場合と比べ、約6か月後の骨の幅や高さの減少を抑える可能性が示されました。ただし、根拠の確実性は非常に低いと評価されています。インプラントを入れる際の追加の骨造成や、インプラントの失敗を減らせるかについても、明確な結論は出ていません。[1]
2024年には、歯周病で状態が悪くなった大臼歯の抜歯部位に対象を絞ったレビューが公表されています。骨の形を保つ効果や追加処置を減らす可能性が示された一方、観察期間は主に4~6か月で、根拠の確実性は低い、または非常に低いという評価でした。処置をしても、追加の骨造成が不要になるとは限りません。[2]
こうした結果から、短期間に骨の形が保たれたことを、そのまま「将来のインプラントが長持ちする」と読み替えるのは慎重でありたいと思います。僕は、患者さんへの説明でも、期待していることと、約束できないことを同じ場でお伝えしたいと考えています。
処置を加える理由を、患者さんと確認する
この処置には、痛みや腫れ、傷の治りが遅れること、膜や材料の一部が露出することなども報告されています。また、どの材料や方法が最もよいかを決める根拠も十分ではありません。[1]
若い先生には、抜歯後に何を回復したいのか、そのためにこの処置を加える理由は何か、行わない場合にはどのように治療を進めるのかを、先に整理してほしいと思います。材料の名称や手順だけを覚えるよりも、患者さんの選択に役立つ説明を組み立てることから始めましょう。
患者さんも、抜歯後の治療について分からない点があれば、「この処置で何が期待できますか」「あとで別の処置が必要になることはありますか」と担当の歯科医師に聞いてみてください。説明を受けたうえで、ご自身の希望も伝えていただければと思います。
参考文献
- Atieh MA, et al. Interventions for replacing missing teeth: alveolar ridge preservation techniques for dental implant site development. Cochrane Database Syst Rev. 2021;4:CD010176. doi:10.1002/14651858.CD010176.pub3. 出典
- Fok MR, Pelekos G, Jin L. Efficacy of Alveolar Ridge Preservation in Periodontally Compromised Molar Extraction Sites: A Systematic Review and Meta-Analysis. J Clin Med. 2024;13(5):1198. doi:10.3390/jcm13051198. 出典
2026年10月18日 文献と記載内容を見直しました。