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10212026

AIが数学の難問を解く時代に 私たちは何を学びどう研究するのか

数学の専門家ではない歯科医師として考える 科学と学びの未来

2026年10月21日
医療法人志結会 理事長 尾崎亘弘

生成AIが、数学の未解決問題について、数百規模の成果を示す原稿を公開した。数学者が長く向き合ってきた問題にも、大きな進展が起きているようです。[1][2]

2026年10月21日。私は、この話題を今、考えておく必要があると感じています。

私は数学の専門家ではありません。個々の難しい証明を読み、その正しさを自分で判定できるわけでもありません。

それでも、歯科医療に携わり、若い人の学びに関わる立場から、この出来事を遠い分野の話として見過ごすことはできません。

自分が何年もかけて考えてきた問題を、AIが解いたとしたら、どのような気持ちになるでしょうか。

社会にとっては大きな前進かもしれません。しかし、その問題に人生の一部を重ねてきた人には、喜びだけでは受け止められないこともあると思います。

そして、同じような変化が、実験を行う科学や、私たちの医療にも広がっていくとしたら。

前のブログでは、AIが人間の知能を広く超えるASIの未来を考えました。今回は、数学で実際に起きている変化を入り口に、研究すること、働くこと、学ぶことの意味を、私なりに考えてみたいと思います。

歯学部で学ぶ皆さん、高校生の皆さん、そして娘たちにも、専門的な数学を知らなくても読めるように書きます。わからないところは、わからないまま残しながら、一緒に考えていただければと思います。

1 数学で何が起きているのか

まず、ニュースの中身を整理しておきたいと思います。

2026年10月6日、OpenAIは、社内のAIモデルが生み出した数学研究の原稿と、証明を確認するための資料を公開しました。[1]

10月21日に確認した公式の公開場所には、719の原稿があり、関連する内容を372の研究群にまとめています。一つの研究群には、中心となる結果のほか、そのための議論、そこから得られる結果、別の証明などが含まれます。[2]

したがって、719という原稿数を、そのまま「719個の独立した難問を完全に解決した」と受け取ることはできません。372という数についても同様です。

また、すべての結果が同じ程度に確かめられているわけではありません。公式資料も、検証の段階がそれぞれ異なることを説明しています。[2]

実際に、10月7日の更新履歴では、符号の誤りを理由に、関連する3原稿が撤回されています。ほかにも14原稿に、証明や前提などの修正が入りました。[3]

私は、この点をきちんと書いておきたいと思います。驚くべき発表だからこそ、「何が発表されたのか」と「何が確かめられたのか」を分けて受け止める必要があります。

一方で、誤りが見つかった原稿があることだけで、ほかの成果まで価値がないと判断することもできません。一つひとつの中身を確かめる仕事が要ります。

今回使われたのは、公式説明では未公開の社内モデルです。普段私たちが使うAIに同じ問題を入れれば、同じ成果が出ると約束されたわけでもありません。[2]

今の段階で私が理解しているのは、AIが数学研究に大きく関与するところまで進み、その成果を人間の研究に取り込む作業が、急速に進んでいるということです。

2 数学の証明は何を確かめているのか

数学が苦手・これから向き合う方に向けて、「証明」という言葉を一緒に少し考えてみます。

例えば、正の偶数と正の偶数を足すと、必ず偶数になる、という話です。2と4を足せば6。8と10を足せば18。確かにそうなります。

しかし、例をいくら増やしても、どこまでも続く数を全部調べ終わることはできません。

そこで、偶数は「二つずつの組に分けて、余りが出ない数」だと考えます。二つずつの組がいくつかあるものに、別の二つずつの組を足しても、やはり余りは出ません。

この説明なら、具体的にいくつかを計算しなくても、どれほど大きな正の偶数にも当てはまります。証明とは、このように、前提から結論が必ず成り立つことを、論理で示すことです。

研究で扱う問題は、もちろんはるかに複雑です。それでも、たくさんの例でうまくいったことと、主張の全体を証明したことの違いは、同じです。

「予想」という言葉も、数学では大切です。正しいと考えられているけれど、まだ証明されていない主張を指します。長く信じられてきた予想が、ある一つの例外によって崩れることもあります。その例外を「反例」といいます。

AIによる成果にも、主張が正しいことを証明するものや、反例を示して予想を否定するものなど、異なる形がありえます。

今回の発表には、Leanという、証明を厳密な言葉で記述し、コンピューターで確認する仕組みも使われています。[1]

AIが「自分の答えは正しい」と言うこととは、役割が違います。決められた規則に従い、論理のつながりを点検するための道具です。

ただし、コンピューターに渡した命題が元の問題を正しく表しているか、どの前提を置いたかも大切です。公式には主要な結果の約42%を形式化したと説明されていますが、これは「42%が数学者による独立した査読を終えた」という意味ではありません。[3]

私には個々の難しい証明を判定することはできません。そこは、その分野の専門家に確認が必要です。だからこそ、結果の数だけで理解したつもりにならないようにしたいと思います。

3 答えが得られることと人間が理解すること

では、専門家の間でも、まだ何もわかっていないのでしょうか。

そうとも言えないようです。

数学者のテレンス・タオは、10月19日、Landau–Siegel零点という数論の問題に関わる証明を、自身のブログで解説しています。

素数の分布に関わる問題とのことですが、この名前や詳しい数式を、ここで覚える必要はありません。

注目したいのは、公開された議論を、複数の数学者が読み解き、整理し、より簡潔にする仕事が進んでいることです。タオ自身も、その理解にAIを使ったことを明らかにしています。[4]

ここでは、人とAIがやり取りしながら、理解を深め、次の研究へ進んでいます。

私は、この「理解する」という部分に、大きな意味があると思っています。

例えば、非常に長い証明があり、一つひとつの論理に問題がないことを確かめられたとします。それでも、「なぜ、この方法でうまくいったのか」「決め手になった考えは何か」「別の問題にも使えるのか」が見えていなければ、十分に使いこなせるとは限りません。

正しさを確認することと、その意味を理解して使えるようになることには、重なる部分と、異なる部分があります。

医療でも、ある研究で治療効果が示されたことを知るだけでは、目の前の患者さんへの適用を決められません。研究に参加した人はどのような人で、何と比較し、どのくらい観察したのか。自分が診ている患者さんとは、何が同じで、何が違うのか。そのつながりを考える必要があります。

数学と臨床医学では、正しさの確かめ方は違います。それでも、得られた結果を理解し、適切な場面で使うという点は、私にも身近に感じられます。

推測ですが、AIが研究成果を出す速さと、人がそれを理解し、教育や社会に生かす速さの間には、今後さらに差が生まれるかもしれません。

その差を埋める仕事にも、時間と人と資金が必要になるのだと思います。

4 一つの問題に人生をかけるということ

数学者が長く取り組んできた問題をAIが解いたと聞くと、「解決したのだから、喜べばよいのでは」と感じる方もいるかもしれません。

社会の立場からは、新しい知識が得られることには大きな価値があります。私も、医療や科学が進むことを期待しています。

一方で、研究者の立場を少し想像してみたいと思います。

数学者のHugo Duminil-Copinは、8月30日の随筆で、自身が繰り返し取り組んだ未解決問題について書いています。最終的な証明には至らなくても、共同研究者との出会い、新しい方法、別の問題での発見が、その挑戦から生まれたと振り返っています。[5]

これは10月の大量公開より前の文章です。それでも、問題に取り組む過程が、研究者の成長や周囲との関係をつくることを教えてくれます。

10月14日のNumberphileの番組紹介では、同氏が、OpenAIの公開した多数の証明のうち16件に接して涙した、と紹介されています。[6] その反応だけで証明の正しさは判断できませんが、当事者にとっての衝撃の大きさは伝わってきます。

ここからは、私の考えです。

一つの問題を追い続ける時間には、結果を出すことに加え、自分を鍛え、人とつながり、自分が何を大切にする人間なのかを知る意味もあるのだと思います。

その中心にあった問題が、ある日、別の場所から解決されたと示される。しかも、同じような出来事が次々と起こるかもしれない。

私は、その戸惑いを、単に変化を嫌がっていると片づける気持ちにはなれません。

同時に、これまで積み重ねた時間まで、無価値になるわけではないと考えています。そこで生まれた方法、理解、人間関係、教育への貢献は、その後にもつながります。

ただし、本人がそう思えば済むという話でもありません。研究費や採用、昇進の評価が「最初に答えを出した人」に強く依存しているなら、成果の生まれ方が変わることは、生活や将来設計にも関わります。

研究が進むことを喜びながら、変化の中にいる人を支える。その両方を考える必要があると思います。

5 研究の仕事はどう変わるのか

ここから先は、将来についての私の推測です。

研究を一つの仕事として見ると、AIに代わられるのか、代わられないのか、という大きな問いになりがちです。しかし、研究には、いくつもの工程があります。

何がまだわかっていないかを見つける。調べる価値のある問いを選ぶ。仮説を立てる。計算や実験を行う。結果を確かめる。意味を考え、ほかの人に説明する。

それぞれの工程で、AIが担う範囲と、人が関与する形は変わっていくのだと思います。

文献を横断して関連を探すことや、多数の候補を比べることが速くなれば、一人では扱いきれなかった研究に取り組める可能性があります。小さな研究室にも、新しい機会が生まれるかもしれません。

一方、ある種類の研究作業に必要な人数が減る可能性もあります。新しい仕事が生まれるとしても、変化によって影響を受ける人が、その仕事へすぐ移れるとは限りません。

その規模や時期は、今の私にはわかりません。「全員が不要になる」とも、「みんなが便利になるだけだ」とも、簡単には言えないと思います。

また、「問いを立てることや創造性は、人間だけに残る」と決めつけることにも慎重でありたいです。AIが問いや実験方法の提案まで上達する可能性を、都合よく除外することはできません。

人間の価値を守るために、AIの能力に確実ではない限界を設ける必要はないはずです。

私が考えたいのは、能力の変化を受け止めたうえで、どのような研究を社会として育てたいか、ということです。

すぐに成果が出る研究に加え、時間をかけて理解を深める研究もある。新しい結果を出す人に加え、その誤りを見つけ、説明し、次の世代へ伝える人もいる。

研究者を評価する仕組みが、その幅を十分に認められるようになってほしいと思います。

6 実験するAIはすでに生まれている

数学は、紙やコンピューターの中で考えられることが多い分野です。

では、物質を混ぜたり、細胞を扱ったり、測定装置を動かしたりする科学では、状況は大きく違うのでしょうか。

違いはあります。しかし、実際の装置を使う研究にも、すでにAIが入り込んでいます。

一つの例が、無機材料を合成するA-Labという研究です。文献や計算から合成の候補を考え、ロボットが材料を扱い、できた物質を測定し、その結果から次の条件を選びます。

2026年1月の訂正を反映した論文では、17日間の運転で、合成を目指した57種類の化合物のうち、36種類を合成できたと報告されています。[7]

この数を「人類にとって未知の新物質を36種類発見した」と読み替えてはいけません。対象や操作の範囲が定められた実験です。また、結果の見直しや訂正が行われていることも含めて、評価する必要があります。

もう一つは、酵素を改良する研究です。ここで扱う酵素は、化学反応を進める働きを持つタンパク質です。

2025年の研究では、タンパク質を扱う言語モデルなどの機械学習と、自動実験設備を組み合わせています。候補を設計し、実際につくって測定し、そのデータを次の候補選びに戻す仕組みです。

2種類の酵素を対象に、4週間で4回の改良のサイクルを回し、決められた条件で測った反応を進める働き(活性)が、改良前の酵素に比べ、それぞれ約16倍、26倍になったと報告しています。[8]

ここでも、何でも自動的に研究できたわけではありません。目的や実験系を研究者が用意し、自動化できる測定方法があることが前提になっています。

これらは、会話をする生成AI一つだけの成果でもありません。専門のモデル、従来の計算方法、ロボット、測定装置を組み合わせたシステムの成果です。

それでも、AIが現実の実験結果を受け取り、次の行動を選ぶ過程までつながっていることは、私には大きな意味を持って見えます。

7 身体性はどんな意味を持つのか

「身体性」という言葉を、ここでは少し広く、現実の世界に働きかけ、その結果を観察することとして考えてみます。

人間の研究者は、手を動かし、試料や装置の様子を見て、計画どおりにいかないことに気づきます。記録された数字だけではわからない違和感が、次の判断につながることもあるでしょう。

そのような経験を、私は大切だと思っています。

同時に、AIが現実世界と関わるには、人間と同じ形の身体を持たなければならない、とも考えていません。

ロボット、カメラ、温度や力を測るセンサー、分析装置などにつながれば、AIが受け取れる情報や、働きかけられる範囲は広がります。人が一部の操作を担い、AIと情報を交換する形も考えられます。

ですから、「身体を使う仕事だから、AIによる変化は来ない」と安心する根拠にはできないと思います。

ただし、現実の世界には、考える速さだけでは解決しない問題があります。

試料を育てる時間、装置を動かす費用、測定の誤差、実験を繰り返す手間がある。患者さんを対象にするなら、一人ひとりの違いや、時間がたってから現れる変化もあります。

一年後の状態を予測する方法が進歩しても、実際に一年が経過した状態を、翌日に観察することはできません。

さらに、「何を成功として測るか」も重要です。先ほどの酵素の研究でも、特定の測定環境に適応した結果が、別の環境で同じように働くとは限らないことが指摘されています。[8]

測りやすい数字がよくなったことと、本当に実現したかった目的に近づいたことが、一致するかを考える必要があります。

推測ですが、今後は、候補を考える力が強くなるほど、現実を正確に測り、違いを見抜き、別の条件で確かめる仕組みの重要性も高まるのではないでしょうか。

8 歯科医療で考える未来

私自身の仕事に引きつけて考えてみます。

ここから述べるのは、すでに完成している診療の説明ではありません。今後の研究や医療を考えるための、私の想像です。

例えば、歯周組織の再生に役立つ材料の候補を、AIが提案する。実験設備で細胞の反応を調べ、その結果を受けて、次の材料や条件を考える。

あるいは、歯を長く残すために、これまでの経過から、まだ十分に調べられていない問いを見つける。

そうした研究が速く進めば、患者さんのためになる可能性があります。私も、その進歩には期待しています。

しかし、細胞で望ましい反応が出たことから、すぐに患者さんに有効だとは言えません。

組織の中でどう働くか。ほかの作用はないか。どのような患者さんに役立つか。効果はどのくらい続くか。現実の診療でも同じように再現できるか。

それぞれを確かめる必要があります。実際の治療への適用には、関連領域の専門家に確認が必要です。

また、患者さんが大切にしたいことは、一つの数値では表せません。

歯を長く残したい。痛みを減らしたい。食事を楽しみたい。通院の負担を減らしたい。費用や生活の事情もある。

AIが研究や判断を助けてくれるとしても、何を目指す医療なのかは、患者さんと関わる中で考え続ける必要があります。

私は、臨床の中にある「この人は、何に困っているのか」という問いを、研究につなげられる医療者でありたいと思います。

AIが多くの答えを提案する時代には、その答えが誰の生活を、どのようによくするのかを、具体的に確かめる姿勢が、より大切になると考えています。

9 AIと研究するための仕組み

では、学者や研究者は、AIとどのように関わればよいのでしょうか。

私は、AIを研究の協働相手として活用しながら、人間の理解と判断力も育つ形を考えたいと思います。

AIに対して誠実であることと、その出力を慎重に確かめることは、両立します。何に助けられ、何がまだわからないかを正確に記録し、必要な反論や検証を行う。そのような関わり方です。

これは個人の心がけだけでは足りません。

数学とAIに関する独立助言グループAGMAIは、10月6日の声明で、成果の公開を、人間が理解し、数学の知識に組み込んでいく過程の出発点としています。また、研究者が自ら問いを立て、研究方向を選ぶ自由と、研究道具や計算資源への公平なアクセスを重視しています。[9]

なお、このグループが助言したことは、個々の成果の正しさや、OpenAIの進め方を承認したことを意味しないと、同声明は明記しています。[9]

私は、この「誰が研究の方向を選べるのか」という点が重要だと感じます。

高度なAIを使える組織が限られれば、新しい研究を始める機会にも差が生まれるかもしれません。AIが答えを出せるようになったとき、そのAIを誰が使えるのかを、同時に考える必要があります。

同グループの9月29日の提言は、先行研究への適切な引用、説明の改善、生成の過程についての情報、人間の理解を支えるための資金なども求めています。[10]

大量の成果が出た後の理解や検証を、研究者の善意だけに頼ることは、長くは続かないと思います。

また、問いの設定、データの取得、証明の生成、実験、解析、文章化のどこでAIを使ったのかを明らかにすることも大切です。使ったという一言だけでは、研究がどのように進んだかはわかりません。

10月20日には、タオが、AIを使いながら関連する数学の議論を比較し、発展させる共同研究型の課題を提示しています。速さよりも質を重視し、AIの使用と、先行する貢献を明らかにすることを求めています。[11]

私は、このような試みを見ながら、研究の方法そのものを学び直す必要があると感じています。すべての分野で同じ形になるとは限りませんが、協働の具体的な方法を試し、よかった点と問題点を共有することには意味があると思います。

10 それでも自分で学ぶ理由

ここまで読むと、学生の皆さんの中には、「それなら、自分が苦労して勉強する意味はあるのか」と感じる人もいるかもしれません。

私は、意味は十分にあると思っています。

学ぶことで、世界の見え方が変わります。同じ説明を聞いても、基礎を知っていれば、どこに疑問があり、何とつながっているかを考えられるようになります。

例えば、AIが研究論文を説明してくれたとします。基礎があれば、対象となった人や条件、比較した方法、結果の大きさを読み取れます。自分がわからない部分を、具体的に尋ねられます。

ただし、勉強していれば必ず誤りを見抜ける、という保証はありません。専門家も間違います。だからこそ、自分の判断も検証する姿勢が必要です。

私は、AIが便利になるほど、自分の理解を確かめる機会を意識してつくりたいと思います。

例えば、ある問いについて、まず自分の考えを書いてみる。それからAIに別の説明や反論を求める。資料を確認し、最後に画面を閉じて、自分の言葉で誰かに説明してみる。

これは私が考える学び方の一案です。どの学習にも必ず最適だと、研究で確定しているという意味ではありません。

研究を前へ進めるために、AIへ大きく任せる時間があってもよいと思います。一方で、自分の能力を育てるために、すぐに答えを見ずに考える時間も確保したいです。

私はジョギングをしますが、速く目的地へ行くことと、自分の身体を鍛えることは、目的が違います。勉強にも、そのように目的を考えて方法を選ぶ場面があるのではないでしょうか。

もちろん、知的な学習を運動と同じ仕組みだと言いたいわけではありません。ここで伝えたいのは、成果を早く得ることと、自分が成長することの両方を大切にしてよい、ということです。

そして、研究に時間をかける人を育てる責任を、学生だけに背負わせてはいけないと思います。自分で考える経験を持ちながら、新しい道具も学べる教育環境をつくる。それは、教える立場にある大人の仕事でもあります。

歯学部で学ぶ皆さん、高校生の皆さん、そして娘たちへ。

将来、AIのほうが得意なことが増えても、その事実だけで、皆さんが興味を持ち、学び、何かに取り組む意味がなくなるわけではありません。

自分が関わる世界を理解し、人と話し、選択肢を考えられるようになる。その力を育てることに、私はこれからも大きな価値があると思っています。

11 2026年10月21日の考えを残しておく

私は、AIによって科学や医療が前へ進むことを期待しています。これまで解けなかった問題が解け、苦しんでいる人のためになる知識や技術が増えることを望んでいます。

同時に、その進歩の中で、研究者や学生がどのように育ち、どのような役割を持って生きるのかも、大切にしたいと思います。

AIが成果を出す力が高まれば、社会が自動的によい方向へ進むとは限りません。成果を理解する人、現実で確かめる仕組み、学ぶ機会、使うための環境が必要です。

数学で起きていることから、私はそのことを改めて考えさせられています。

ただし、今回の成果だけで、ASIが実現したと判断することも、AIに意識があると結論づけることもできません。ある領域で示された能力と、ほかの問いは、分けて考える必要があります。

5年後の2031年、10年後の2036年に、この文章を読み返したら、どのように感じるでしょうか。

心配しすぎていたと思うのか。変化を小さく見積もっていたと思うのか。それとも、当時は気づかなかった別の課題が、大きくなっているのか。

今は、わかりません。だからこそ、2026年10月21日の時点で何を知り、何を考え、何をまだ知らないのかを、残しておきたいと思います。

予測や考えは、新しい証拠に応じて変えてよいものです。私も、学びながら更新していきたいと思っています。

理事長として、歯科医療に携わる者として、そして子どもを育てる一人の親として。

知能を使える範囲が広がる時代に、その力を、誰のために、どのように使うのか。

患者さんのために。学ぶ人たちのために。ともに働く人たちのために。

その問いを持ちながら、皆さんと一緒に考え続けたいと思います。

出典と参考資料

本文の番号は以下の資料に対応します。資料の要旨を踏まえた説明で、原文の直接引用ではありません。研究者の評価や将来像には、筆者の私見と推測が含まれます。ウェブ資料の最終確認日は2026年10月21日です。

[1] OpenAI Sharing AI progress in mathematics 2026-10-06
数学研究成果の公式発表。社内モデルの成果と公開方法。

https://openai.com/index/sharing-ai-progress-in-mathematics/

[2] OpenAI openai/math 公式リポジトリ README 2026-10-21確認
719原稿・372の関連研究群、検証段階の違い、使用モデルなど。原稿数は独立した解決問題数ではない。

https://github.com/openai/math

[3] OpenAI openai/math History 2026-10-07更新
関連3原稿の撤回、14原稿の修正、主要結果の形式化状況。形式化と独立した査読を区別する。

https://github.com/openai/math/blob/main/history.md

[4] Terence Tao A sketch of the proof of non-existence of Siegel zeroes 2026-10-19
AI由来の議論を数学者が理解・整理・簡約している例。本文は筆者による証明の独立検証を意味しない。

https://terrytao.wordpress.com/2026/10/19/a-sketch-of-the-proof-of-non-existence-of-siegel-zeroes/

[5] Hugo Duminil-Copin Care for a little more AI? 2026-08-30
未解決問題に取り組む過程と研究者の成長についての本人の随筆。10月の大量公開より前の文章。

https://proofsandprompts.com/2026/08/30/care-for-a-little-more-ai/

[6] Numberphile The Strip Mining of Mathematical Proofs — with Hugo Duminil-Copin 2026-10-14
本人へのインタビューの公式番組紹介を参照。本文の感情に関する記述は番組紹介の範囲であり、発言全文の引用ではない。

https://www.numberphile.com/podcast/hugo-ai

[7] Szymanski NJ, Rendy B, Fei Y, et al. An autonomous laboratory for the accelerated synthesis of inorganic materials. Nature. 2023;624:86–91. 2023-11-29公開、2026-01-19訂正
AIとロボットによる無機材料合成。本文の36/57という数値は、訂正を反映した論文に基づく。

https://doi.org/10.1038/s41586-023-06734-w

[8] Singh N, Lane S, Yu T, et al. A generalized platform for artificial intelligence-powered autonomous enzyme engineering. Nature Communications. 2025;16:5648. 2025-07-01
2酵素を対象とした自律実験。活性の向上は所定の測定条件での結果であり、患者への効果や広範な一般化を示すものではない。

https://doi.org/10.1038/s41467-025-61209-y

[9] Advisory Group on Mathematics and Artificial Intelligence On OpenAI’s Release of Mathematical Results 2026-10-06
人間の理解、研究方向を選ぶ自由、公平な研究道具へのアクセス。数学者全員の総意を示すものではない。

https://agmai.org/

[10] Advisory Group on Mathematics and Artificial Intelligence Responsible Release of AI-Generated Mathematics 2026-09-29
先行研究への帰属、公開情報、形式化、人間の理解を支える資金についての提言。

https://agmai.org/general-sep29/

[11] Terence Tao An experimental AI-math challenge: using tenth discriminant bounds to explore arguments ruling out Siegel zeroes 2026-10-20
AIを用いた共同研究型の課題。質、使用の開示、先行する貢献への適切な帰属を重視。

https://terrytao.wordpress.com/2026/10/20/an-experimental-ai-math-challenge-using-tenth-discriminant-bounds-to-explore-arguments-ruling-out-siegel-zeroes/

執筆と確認について

注釈:本稿は、私の問題意識をもとに、生成AIとの対話と公開資料の整理を通じて作成した原稿です。研究事実と私見を分けて記載し、公表する内容の最終的な確認と責任は筆者が担います。