理事長ブログ

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10212026
夢と思い

AIが人間を超える時代に私たちはどう生きるのか

歯学部で学ぶ皆さんと高校生の皆さん そして娘たちへ

AIについて考えていると、話はいつの間にか、仕事や学校の勉強を越えていきます。

人間とは何か。病気や老いはどうなるのか。ほかの生物と、どのように地球で暮らしていくのか。

・・・そして、人類の活動はどこまで宇宙へ広がるのか。

歯科医療に携わる私にとっても、これは遠い世界だけの話ではありません。

これから医療者になる学生の皆さん、高校で進路を考えている皆さん、そして私の娘たちが、どのような社会を生きるのかという問いにつながっています。

今回は、AIが人間の知能を広く超える「ASI」の時代について、私なりに考えてみます。

多くの研究者や科学者がこのことについて論じてきています。

ただ未来の話ですから、わからないことは数多くあります。

それでも、わからないところは残したまま現在の研究と、そこから考えられる可能性を丁寧につなぐことには意味があると思っています。

最初に、私の見通しを示します。

ASIが実現する時期として、私は2040年前後と考えています。

社会の仕組みまで大きく変わる「シンギュラリティ」のような転換は、2035〜2055年にかけて進む可能性を考えています。

これは私の予測です。

研究によって確定した年代でも、専門家の合意でもありません。

また、この幅は、統計計算から得た信頼区間でもありません。

あくまで私見ですが、なぜそう考えるのか、どこが不確かなのかを、一緒に考えたいと思います。

1 AGIとASIとシンギュラリティ

まず、言葉を整理したいと思います。

(1)AGIは「汎用人工知能」と訳されます。

ここでは、一つの得意分野に限らず、幅広い知的な仕事を人間に近い水準でこなせるAIと考えます。

(2)ASIは「人工超知能」です。

さらに進んで、科学研究、設計、計画、推論などの幅広い領域で、人間の最高水準を超えるAIを指すことにします。

ただし、研究者の間でも定義は完全には統一されていません。

能力の高さ、対応できる仕事の広さ、どこまで自律的な行動を任せるかを、分けて考える枠組みも提案されています。[1]

試験問題で高得点を取れることと、現実の社会で大きな権限を与えてよいことは、別々に確かめる必要があります。

(3)シンギュラリティは「技術的特異点」と訳されます。

このブログでは、AIが次のAIや新しい技術の開発を強く加速し、社会の変化を従来の感覚では見通しにくくなる転換、と捉えます。

ASIは「どれほどの能力に達したか」という話です。

シンギュラリティは「その能力によって、社会がどのような速さで変わるか」という話です。

能力的に実現しても、社会に広がるまでには時間がかかるかもしれません。

逆に、すべての領域で人間を超える前から、ある分野の変化が社会全体を大きく動かす可能性もあります。

なので、「ある日突然、それまでの世界が一斉に切り替わる」とは考えていません。

国や地域、仕事や産業によって、変化の速さには差が出ると思います。

2 いつ実現するのかという問いにどう向き合うか

将来のAIについては、専門家の間でも予測が分かれています。

2023年に実施され、2,778人のAI研究者が回答した調査があります。

その中で、科学の進展が大きく中断しないという条件のもと、「機械が、人の助けなしに、あらゆる課題を人間よりよく、安く行える」時期について、回答を集約した予測は「2047年までに50%」でした。この論文の正式刊行は2025年です。[2]

これは少し慎重に判断する必要があります。

「研究者の半数が2047年と答えた」という意味ではありません。研究者がそれぞれ示した確率の予測を集約したものです。また、この設問と、このブログでいうASIの定義が完全に一致するわけでもありません。

2047年という数字は、未来の確定日ではないのです。

シンギュラリティについては、レイ・カーツワイルが2045年を重要な転換点とする未来像を示しています。[3]

よく知られた予測ですが、一人の論者の見通しであることは忘れてはいけません。

では、なぜ私は2040年前後を中心に考えるのでしょうか。

私が注目しているのは、AIが研究者の仕事を助け、やがてAI自身の改良を大きく進める可能性です。

問題を見つける。仮説を立てる。プログラムを書く。実験する。結果を批判的に調べる。その結果から、次の実験を考える。

この一連の過程が、AIによって速く、広く進むようになれば、進歩の速度そのものが変わるかもしれません。

ただし、途中の一つが得意でも、研究全体が自動化されたことにはなりません。

魅力的な仮説が間違っていることもあれば、実験結果の読み違いもあります。

自分の出した答えを正しく疑い、失敗した方法を捨て、次の道を選ぶ能力が必要です。

METRという研究機関は、AIが一定の成功率で完了できる課題の難しさを、人間の専門家がその課題に要する時間を尺度にして調べています。

ただし、対象は主として、成功条件の比較的明確なソフトウェア開発などの課題です。「人間なら数時間かかる課題を解ける」ことと、「AIが何時間も確実に自律行動できる」ことは同じ意味ではありません。[4]

この違いは医療を考えるとよくわかります。

一度すばらしい答えが出ることと、患者さんごとに条件が違う実際の臨床で繰り返し信頼できる判断ができることとの間には距離があります。

国際AI安全性報告書も、今後の進歩について、鈍化から大幅な加速まで複数の可能性を示しています。[5]

私は、研究開発の加速を重視して見ているため、2035〜2045年という見通しを置いています。

しかし、2030年前後へ早まる可能性も、2050年以降へ遅れる可能性も、想定する形のASIが実現しない可能性も考えています。

私の予測を変える材料は、自律性と反芻です。

AIが研究の最初から最後までを、安定して、独立した検証にも耐える形で進められるなら、時期を早めて考えます。

反対に、長い作業での誤り、実験や製造の遅れ、電力や半導体の制約が強く残るなら、遅く考えます。予測は、証拠に応じて更新してよいものです。

3 賢さが増えても物理的な時間は残る

ここで、未来を考えるときの大切な境界があります。

AIが速く考えられるようになっても、現実の世界を動かすには、リアルでの材料、装置、場所、人との調整が必要です。

例えば新しい半導体を考案できても、工場の建設と製造には工程があります。同様に新しい治療法を提案できても、人の身体で長期的に何が起こるかは、確認しなければなりません。

ASIが、その確認方法まで改善する可能性はあるでしょう。

しかし、「確認方法を賢くすること」から「確認が不要になること」は導けません。

未知の現象をすべて計算だけで見抜けるという前提は置けないからです。

私は、ASIの時代には、知的な作業の一部は非常に速くなり、社会のほかの部分との速度差が大きくなると考えています。

研究案は次々と生まれるのに、実験設備や電力、制度の整備が追いつかない。そうした状態も、十分にあり得ると思います。

この速度差を考えると、ASIの成立と、私たちの生活が豊かになることの間には、いくつもの段階があると考えられます。

発見、製造、安全性の確認、費用の低下、社会への普及。

その連鎖・つながりを、一つずつ見ていく必要があります。

4 人間の価値とAIの能力をどう考えるか

ASIが実現すれば、専門的な知識や助言を、今よりはるかに安く、多くの人が使える可能性があります。

たとえば、一人の学生に、理解度に合わせて説明する家庭教師がつく。

小さな医療機関でも、複数の専門領域を横断した検討の支援を受けられる。

一人では難しかった研究や事業を、少人数で始められる。

これは、私が期待している未来です。

ただし、実現するには、利用料金、利用できる環境、言語対応などの条件が整わなければ、恩恵は平等には届きません。

ここで私は、三つの問いを考えたいと思います。

第一は、AIに何ができるか。

第二は、人間にはどのような権利や尊厳があるか。

第三は、AIを動かす力を「誰が」持つか、という問いです。

ある仕事をAIのほうが速くできるようになっても、その仕事をしていた人の大切さまで小さくなるわけではない。私は、そう考えています。

人が尊重される理由を、能力の競争だけに置いてしまうと、子ども、高齢の方、病気や障害のある方、調子を崩している人の立場が不安定になります。
人の価値を、その時点でどれだけ役に立てるかだけで測る社会に、私はしたくありません。

一方で、思考だけでなく「共感や芸術や目的を考えることは、永遠に人間だけのものだ」と言い切ることにも慎重でありたいと思います。
将来のAIがどこまでできるのかは、まだわかりません。

人間の尊厳を守るために、AIの能力に都合のよい限界を設ける必要はないはずです。

また、「AIが生み出す富が増える」ことと、「すべての人が豊かになること」は、別の問題です。

AI、計算設備、電力、データを、一部の企業や国家が強く握る社会も考えられます。

ここが重要で、生産が効率化しても、利益を受け取る仕組みが偏っていれば、格差は大きくなり得ます。

だから、教育や医療へのアクセス、利益の分配、働き方、意思決定への参加を、技術と一緒に考える必要があります。

仕事には収入に加えて、人とつながり、役割を持ち、自分の成長を感じる側面もあります。

作業が減ったときに、その部分を社会がどう支えるかも、大切な課題になるでしょう。

医療で考えてみます。

AIが「長持ちする可能性」を重視して、ある治療を勧めたとします。

それでも、患者さんが大切にしたいことは一つではありません。長持ちすること、費用、通院の負担、痛みへの不安、生活上の事情。

その人が納得して選ぶ過程には、複数の価値が関わります。

私は、ASIの提案を理解するための支援を受け、説明を求め、異議を伝えることができ、必要なら断れる仕組みが重要になると考えます。
「人間が最終判断する」と書類に書くだけでは十分ではありません。
内容を理解できず、事実上選べないまま承認する状態では、人間の主体性は守れないからです。

5 AIは心や善意を持つのか

今でもChatGPT6のような、賢いAIを想像すると、意思や感情も自然に生まれるように感じるかもしれません。

しかし、問題を解く能力と、喜びや痛みを内側で感じることは、別の問いです。

AIの意識を調べるために、複数の意識理論から手がかりを整理する研究は進んでいます。

それでも、どのAIに意識があるかを確実に判定する方法については、大きな不確実性が残っています。[6] 私たちは、「意識がある」とも「今後も絶対に生まれない」とも、簡単には断定できません。

さらに、意識があることと、人間やほかの生物を大切にすることも同じではありません。高い知能から、善意が自動的に導かれるわけではないのです。

AIの危険性を考えるときも、必ずしも「人間を嫌いになる」という物語を想像する必要はありません。

目的の与え方が不適切だったり、目的を追う過程で人間への影響が軽視されたりするだけでも、問題は起こり得ます。

将来の制御喪失を考える国際報告も、能力だけでなく、行動傾向や、行動を可能にする環境などを分けて検討しています。[5]

たとえば「生産量を最大にする」という目標に、環境や地域の暮らしを守る条件が十分に含まれていなければ、生産の効率と人々の幸福は食い違うかもしれません。

AIに何を求めるか、何をしてはいけないとするか、誰が監督し、修正できるかが重要なのです。

将来、意識や苦痛を持つ可能性が高いAIが現れた場合には、その扱いも新しい倫理の問題になります。

ただし、それも現在わかっていることと、将来の仮定を区別して考える必要があります。

6 生命と医療はどこまで変わるのか

医療者として、私はこの医療・生命科学分野に大きな期待を持っています。

AlphaFold 3は、タンパク質に加えて、DNA、RNA、薬の候補となる小さな分子などが組み合わさった立体構造の予測を進めました。[7]

生命の中で働く分子が、どのような形で関わり合うのかを考えるための、有力な手段です。

ただし、構造の予測自体にも誤りや限界が残っています。

さらに、分子の形を予測できることから、人間の身体全体を理解できたとは言えません。身体の中では、多くの分子や細胞が、時間とともに変化しながら相互に作用しています。

構造の予測、病気の仕組みの理解、治療法の成立は、それぞれ確かめるべき段階があります。

AIが標的の探索や分子の設計に関わった薬の候補が、人を対象とする試験に進んだ例もあります。

肺が硬くなって呼吸の働きが低下する「特発性肺線維症」を対象に、71人、12週間の第2a相試験が行われました。

これは、主に安全性を調べ、効果の手がかりも探る初期段階の試験です。[8]

ヒトでの検証に進んでいることは大きな前進ですが、この一つの試験から、長期的に治ることや寿命が延びることまで結論づけることはできません。

私がASIに期待するのは、膨大な候補を調べ、有望な仮説を見つけ、実験の結果から次の問いをつくる過程が、さらに速くなることです。
実験を行う装置やロボットと結びつけば、研究の進め方そのものが変わる可能性があります。

歯科医療に引きつけて、将来の仮説を一つ考えてみましょう。

ある患者さんについて、歯や顎の骨の形、口の中の細菌の状態、免疫の働き、噛む力、全身の健康状態、日々の生活、本人の希望までを関連づけて検討する。

そこから、予防、治療、経過観察を、その人に合わせて組み立てる。

ASIは、こうした複雑な検討を助けるかもしれません。

これは、すでにそのような診療が全面的に実現しているという説明ではありません。私が考える未来像です。

データの正確さ、個人情報の扱い、現実の治療成績を確かめる必要がありますし、治療への適用には、それぞれの領域の専門家に確認が必要です。

歯や組織の再生、病気の早期発見、加齢に伴う機能低下への対応が進むことにも期待しています。

しかし、そこから「何年には老いなくなる」「必ず200歳まで生きられる」と約束することはできません。研究の速度が上がることと、人の身体で安全に役立つことが確かめられることを、丁寧につなぐ必要があります。

生命科学の進歩は、人間の医療だけに関わるものでもありません。

農作物、家畜、野生生物、微生物の研究や保全にも、役立つ可能性があります。

そのとき、利用価値が高い生物だけを残せばよいのかという問題が生まれます。

私は、ほかの生物を人間に役立つ資源としてだけ見る姿勢には、立ち止まりたいと思います。人間以外の生命をどのように尊重するか。その価値判断は、計算能力が高まっただけで自動的に決まるものではありません。

7 地球環境を守る知能になるために

ASIは、地球環境を調べ、守るためにも力を発揮する可能性があります。気象、海洋、森林、農地、都市の状態を把握し、対策を比較する助けになると考えられます。

実際に、AIを使ったGenCastという研究は、複数の将来の天気を確率的に予測し、研究で設定した多くの評価項目で高い性能を示しました。[9]

ここで大切なのは、未来を一通りに決めつけるのでなく、起こり得る複数の結果と、その起こりやすさを扱っていることです。

観測できていない情報があり、自然には複雑な相互作用があります。

したがって、優れたAIができても、地球の未来を完全に予測できるとは限りません。予測が外れる可能性を含めて、対応を考えることが必要です。

また、環境の問題には、計算だけでは決められない部分があります。

ある場所に発電設備を増やせば、電力は得られる一方で、生態系や地域の暮らしに影響が出るかもしれません。

食料生産、森林の保全、雇用、地域の権利を、どのように両立させるか。何を大切にするかによって、選ぶ答えは変わります。

AIは、選択肢ごとの影響を調べる力を高めてくれるかもしれません。

しかし、影響を受ける人々の声を聞き、何を優先するかを決める仕組みまで、技術の進歩だけで整うわけではありません。

私が望むのは、地球を一つの数字・指標だけで評価するのではなく、多様な生命と人々の暮らしを確かめながら、方針を修正できる社会です。

ASIに環境保全を任せるとしても、何を守り、何を損失として数えるのかを、私たちはシビアに問う必要があります。

8 その知能を動かすエネルギーはどこから来るのか

AIは、画面の中だけで動いているように見えます。

現在の大規模な生成AIを支えるのは、主にデータセンターにある大量の半導体です。そこでは、電力を使い、熱を出しながら計算しています。

国際エネルギー機関、IEAは、世界のデータセンターの電力消費を、2025年に485 TWhと推計し、2030年には950 TWhへ、ほぼ倍増すると予測しています。

2030年の世界の電力需要の約3%に相当する見通しです。[10] TWhは電力量の単位で、1 TWhは10億kWhです。

この数字は、AI以外の用途も含むデータセンター全体のものです。

また、2030年の数字は予測であり、ASIが実現した後の必要電力を示す数字でもありません。ASIをつくるのに、どれほどの計算量が必要なのかは、まだ確定していません。

私の見方では、当面の電力は、一つの発電方法だけで支える形にはなりにくいでしょう。

太陽光や風力、蓄電池、送電網の強化に加え、地域の条件に応じて、原子力、水力、地熱などを組み合わせる形になると考えます。

現実には天然ガスへの依存が続く場所もあるでしょう。IEAも、さまざまな電源や蓄電の契約・計画と、電力網への接続の課題を整理しています。[11]

太陽光や風力は、発電できる時間や量が変わります。

必要なときに電気を使うには、電気をためる、別の地域から運ぶ、ほかの電源を組み合わせる、計算する時刻を調整するといった工夫が要ります。

発電所の能力を足し合わせるだけでは、必要な電力をいつでも届けられるとは限らないのです。

水も無視できません。

IEAが2026年10月に公表した報告では、把握したAI専用データセンターの容量の約40%が、水の需給が厳しい、または極めて厳しい地域にあります。[11]

これは施設の数の40%という意味ではありません。冷却方法によっては水を使い、水の使用を減らす方法が電力消費を増やす場合もあります。

つまり、知能を増やす計画は、電力、水、土地、半導体の製造、地域の暮らしを含めて考える必要があります。AIが環境問題の解決を助ける一方で、そのAI自体も資源を使う。この両方を見なければ、全体の評価を誤ります。

核融合にも期待があります。現在の原子力発電で使う核分裂が、重い原子核を分ける反応であるのに対し、核融合は軽い原子核を結びつける反応です。米国エネルギー省には、2030年代半ばに商業的な核融合電力を届けることを目指す計画があります。ただし、材料、燃料の循環、設備の工学などに課題が残り、これは実現が保証された予定ではありません。[12]

ASIが研究を進める助けになる可能性はあります。

しかし、「ASIができれば核融合もすぐ完成する」とは言えません。逆に、「核融合が完成しなければASIは実現しない」と決定する根拠もありません。

もう一つ考えたいのが、効率と総量の違いです。

仮に、ある計算に必要な電力が10分の1になっても、その計算を100倍行うようになれば、合計の電力は10倍になります。これは将来の実測値ではなく、仕組みを理解するための例です。

AIが安く便利になるほど、利用する場面が増えるかもしれません。

したがって、「一回の計算が省エネになった」ことだけで、社会全体の消費電力が減るとは結論づけられません。効率の向上と、使う量の変化を、同時に追う必要があります。

9 宇宙ではAIがどのような役割を持つのか

ここからは、さらに不確かさの大きい未来を考えます。

私は、宇宙では、人間が大規模に暮らすより先に、AIを搭載した機械の活動範囲が広がる可能性を考えています。

人間には空気、水、食料、身体を守る環境が必要です。

機械にも電力や修理、放射線への対策は必要ですが、人間と同じ生命維持の仕組みは必要ありません。

そして、距離の問題があります。

地球と火星の通信には、位置関係によって片道数分から20分以上かかります。[13]

地球から命令し、返事を待つだけでは、その場ですぐに判断したい状況に対応しにくくなります。

私は、遠くへ行くほど、現地で判断できるAIの役割が大きくなると考えています。

ASIになっても、既知の物理法則のもとでは、情報を光より速く伝えることはできません。宇宙のどこでも瞬時に同じ情報を共有する、一つの巨大な知能を前提にはできないのです。離れた場所にあるシステムが、それぞれ判断し、時間をかけて情報を交換する姿を想像しています。

エネルギー源としては、宇宙で太陽光を利用する方法が考えられます。

発電した電気を地球へ送る構想もありますが、NASAの評価では、軌道上での組み立て、保守、送電、打ち上げや製造の費用などが大きな課題になっています。[14]

一方、宇宙で発電し、その場で計算や製造を行うなら、地球へ電気を送る場合とは条件が変わります。

ただし、条件が変わることだけで採算が取れるとは言えません。設備を運び、つくり、修理し続ける仕組みが必要です。これは私が考える将来の可能性であり、近い将来に確実に成立する事業として述べているわけではありません。

宇宙での計算には、熱を逃がす問題もあります。

宇宙は冷たそうに感じますが、真空では周囲の空気に熱を運んでもらえません。機器の内部から熱を集め、放熱板などから赤外線として外へ逃がす必要があります。[15] 計

算機を宇宙へ置けば、それだけで冷却の問題が消えるわけではないのです。

さらに遠い可能性として、太陽の周囲に多数の集光・発電装置を置き、大きな規模でエネルギーを使う姿も想像できます。恒星のエネルギーを大規模に利用する文明という発想は、物理学者フリーマン・ダイソンの論文でも論じられました。[16] ただし、その発想があることと、私たちが建設できることは別です。

この段階には、宇宙での資源利用や製造、膨大な設備の維持など、多くの前提が必要です。私は、その実現年を挙げられません。ASIの成立時期より、さらに不確かな話だからです。

それでも、地球の生態系を大切にしながら、一部の大規模な計算や工業を宇宙へ広げる未来は、考える価値があると思っています。その構想を進めるなら、宇宙を利用する権限や利益を誰が持つのか、地球に残る人々にどのような影響があるのかも、同時に問われるでしょう。

10 それでも私たちが学ぶ理由

ここまで読むと、学生の皆さんの中には、「それほど賢いAIが現れるなら、自分が勉強する意味は何だろう」と感じる人もいるかもしれません。私の娘たちにも、同じ問いが生まれるかもしれません。

私は、学ぶ意味は十分にあると考えています。そして、その意味を「AIより高い点数を取ること」だけに置く必要はないと思います。

たとえば、AIが歯科の診断候補を示したとします。解剖学や生理学、病理学などを学んでいれば、患者さんの訴えや画像、全身状態と、その候補がどうつながっているかを考えられます。

説明に足りない点を尋ね、必要な確認を提案できます。

もちろん、知識がある人なら必ずAIの誤りを見抜ける、という保証はありません。

専門家でも誤ることはあります。それでも、基礎を学ぶことは、説明を理解し、問いを立て、自分がわかっていないところを知るための土台になります。

高校で学ぶ数学は、数字の意味や条件を考える助けになります。

理科は、説明と実際の観察を照らし合わせる力につながります。

国語や外国語は、相手の言葉を読み、自分の考えを伝えるために役立ちます。

歴史や社会を学ぶことは、制度がどのようにつくられ、誰にどのような影響を与えてきたのかを考える手がかりになります。

知識を覚えることも、理解を深めることも、対話することも、すべてつながっています。

必要なときにAIへ聞けるとしても、何を尋ねるべきか、答えのどこが自分の問題に関わるかは、自分の中にある理解に左右されます。起点となるコアは自分の中にあります。

また、身体を使って経験すること、人と一緒に何かをすること、思うようにいかない現実に向き合うことも、大切にしてほしいと思います。身体性が重要です。

医療を学ぶなら、患者さんが何を心配しているのかを聴き、生活の事情を知り、自分の説明が届いたかを確かめる。その経験が、知識を誰のために使うのかを具体的にしてくれます。

私は、「人間にしかできないことを急いで探さなければ、価値がなくなる」と学生の皆さんを追い立てる気持ちはありません。

将来の能力の境界を、今の私たちは確定できませんし、人生の価値は仕事や学業の競争だけでは決まらないと考えるからです。

学ぶことで、自分が関わる世界を少しずつ理解できるようになる。

大切にしたいことを言葉にできるようになる。

誰かの困りごとに気づき、一緒に考えられるようになる。

私は、その力を育てることに、これからも大きな意味があると思っています。

11 未来を若い世代だけの責任にしないために

私は、科学や医療の可能性については、かなり期待しています。

これまで難しかった病気への対応が進み、学ぶ機会が広がり、人の負担が減る未来を望んでいます。

同時に、「社会がよい方向へ進むかどうか」については、条件があると考えています。

誰がAIを動かすのか。

利益はどのように届くのか。

判断に異議を言えるのか。

人間以外の生命や、まだ生まれていない世代の利益を、誰が考えるのか。

これらのことを置き去りにして、能力の向上だけに期待することはできません。

そして、変化への対応を、若い人一人ひとりの努力だけに背負わせてはいけないと思います。

教育の機会を整えること、医療を受けられるようにすること、仕事が変わる人を支えること、技術を使う側の責任を明確にすること。

それは、今、組織や社会を担っている大人の仕事でもあります。

理事長としても、歯科医療に携わる者としても、技術によって何ができるようになるかを学び続けたいと思います。

そのうえで、患者さんや、ともに働く人たちの暮らしに、どのような形で役立つのかを考えたいと思っています。

歯学部で学ぶ皆さん、高校生の皆さん、そして娘たちへ。

未来は、まだ決まっていません。

予測を知ることは役に立ちますが、一つの予測に自分の人生を預ける必要はありません。

興味を持ち、学び、人と関わりながら、考えを更新していってほしいと思います。

私も、皆さんとともに考え続けます。

知能が大きく広がる時代に、人間も、ほかの生物も、よりよく生きられるように。

そのために何を選び、何を守るのかを、今から一緒に考えていきたいです。

引用文献と参考資料

本文の番号は以下の資料に対応します。本文は資料の要旨を踏まえた説明で、原文の直接引用ではありません。将来像と年代の予測には、筆者の私見が含まれます。ウェブ資料の最終確認日は2026年10月21日です。

[1] Morris MR, Sohl-Dickstein J, Fiedel N, et al. Position: Levels of AGI for Operationalizing Progress on the Path to AGI. Proceedings of the 41st International Conference on Machine Learning. PMLR. 2024;235:36308–36321.

https://proceedings.mlr.press/v235/morris24b.html

参照内容:AGIの能力水準、対象領域の広さ、自律性を区別する枠組み。世界共通の認定基準ではなく、分類の提案。

[2] Grace K, et al. Thousands of AI Authors on the Future of AI. Journal of Artificial Intelligence Research. 2025;84:Article 9. Published October 6, 2025.

https://doi.org/10.1613/jair.1.19087

参照内容:2023年に実施されたAI研究者調査。調査年と刊行年、および集約された予測と客観的な発生確率を区別する必要がある。

[3] Kurzweil R. The Singularity Is Nearer: When We Merge with AI. Viking; 2024.

https://www.thesingularityisnearer.com/books

https://penguinrandomhouselibrary.com/book/?isbn=9780399562778

参照内容:2045年を重要な転換点とする著者の未来像。専門家の合意や実証済みの予測ではない。

[4] METR. Task-Completion Time Horizons of Frontier AI Models.
Updated September 8, 2026.

https://metr.org/time-horizons/

参照内容:人間の作業時間を尺度としたAIの課題遂行能力と、その評価範囲の限界。

[5] Bengio Y, Clare S, Prunkl C, et al. International AI Safety Report 2026. DSIT 2026/001. Published February 3, 2026.

https://internationalaisafetyreport.org/publication/international-ai-safety-report-2026

参照内容:AI能力の不均一さ、進歩の複数の経路、制御喪失などのリスク。ASIの実現年を認定する報告ではない。

[6] Butlin P, Long R, Bayne T, et al. Identifying indicators of consciousness in AI systems. Trends in Cognitive Sciences. 2026;30(6):488–501.
Online publication November 10, 2025.

https://doi.org/10.1016/j.tics.2025.10.011

参照内容:AIの意識を評価する手がかりと不確実性。意識の有無を実験で確定した論文ではなく、Opinionとして掲載された論考。

[7] Abramson J, Adler J, Dunger J, et al. Accurate structure prediction of biomolecular interactions with AlphaFold 3. Nature. 2024;630:493–500.

https://doi.org/10.1038/s41586-024-07487-w

参照内容:タンパク質、DNA、RNA、低分子などの複合体の構造予測。身体全体の理解や治療効果の検証とは区別する。

[8] Xu Z, Ren F, Wang P, et al. A generative AI-discovered TNIK inhibitor for idiopathic pulmonary fibrosis: a randomized phase 2a trial. Nature Medicine. 2025;31:2602–2610.

https://doi.org/10.1038/s41591-025-03743-2

参照内容:AIが関与した創薬の第2a相臨床試験。71人、12週間の試験であり、長期的な治癒や寿命延長の確認ではない。

[9] Price I, Sanchez-Gonzalez A, Alet F, et al. Probabilistic weather forecasting with machine learning. Nature. 2025;637:84–90.
Online publication December 4, 2024.

https://doi.org/10.1038/s41586-024-08252-9

参照内容:GenCastによる確率的な気象予測。天気や気候の完全な予測を示すものではない。

[10] International Energy Agency. Key Questions on Energy and AI. Paris: IEA; April 16, 2026.

https://www.iea.org/reports/key-questions-on-energy-and-ai/executive-summary

参照内容:データセンター全体の2025年の電力消費推計と2030年の予測。ASIの必要電力を算定した資料ではない。

[11] International Energy Agency. Powering Artificial Intelligence: Strategies for integrating data centres into electricity systems. Paris: IEA; October 14, 2026.

https://www.iea.org/reports/powering-artificial-intelligence/executive-summary

参照内容:電力網、電源、設備、水資源の制約。「約40%」の対象は、同報告で特定されたAI専用データセンターの容量。

[12] U.S. Department of Energy. Energy Department Announces Fusion Science and Technology Roadmap to Accelerate Commercial Fusion Power. October 16, 2025.

https://www.energy.gov/articles/energy-department-announces-fusion-science-and-technology-roadmap-accelerate-commercial

参照内容:2030年代半ばの商業電力供給を目指す計画と、材料・燃料・設備などの課題。目標年は実現の保証ではない。

[13] Schauer K. Space Communications: 7 Things You Need to Know. NASA. October 6, 2020.
Updated February 9, 2026.

https://www.nasa.gov/centers-and-facilities/goddard/space-communications-7-things-you-need-to-know/

参照内容:地球と火星の距離に伴う通信遅延。本文では「片道数分から20分以上」と表記。

[14] NASA. New Study Updates NASA on Space-Based Solar Power. January 11, 2024.
Updated June 22, 2026.

https://www.nasa.gov/organizations/otps/space-based-solar-power-report/

参照内容:宇宙太陽光発電を地上送電へ利用する構想の課題。宇宙で発電し、その場で計算する構想の採算を直接評価した資料ではない。

[15] NASA. 7.0 Thermal Control. State-of-the-Art Small Spacecraft Technology.
Updated May 18, 2026.

https://www.nasa.gov/smallsat-institute/sst-soa/thermal-control/

参照内容:宇宙機の熱輸送と放熱。真空で周囲の空気による対流が使えないことと、放射による排熱。

[16] Dyson FJ. Search for Artificial Stellar Sources of Infrared Radiation. Science. 1960;131(3414):1667–1668.

https://doi.org/10.1126/science.131.3414.1667

参照内容:高度な文明による恒星エネルギー利用と赤外線放射という発想。建設の実現性や時期を示す資料ではない。

注釈:この内容は私の考えに基づき、生成AIとのディスカッションによってブラッシュアップし、作成しました。引用の検討は生成AIによる支援のもと私が剪定しました。この文責はすべて私にあります。