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若手歯科医師の道しるべ! 5年目までのエビデンスベースデンティストリー入門「クリニカル・クエスチョン」編
今日は、MID-G論文執筆コース1期がありました。
そこで、学生時代から勉強していた「クリニカル・クエスチョン」に関して出てきたので、大阪大学大学院歯学研究科での博士課程での勉強していた内容を再構成して復習をしていきます。
EBDを実践したい歯学部生・若手歯科医師にも非常に役に立つ内容になっていますので、ぜひ参考にしてもらえたらと思います。
さらに勉強したいという方はぜひ医院のメッセージBOXまでメッセージをください!!励みになります。
若手歯科医師の道しるべ! 卒後5年目までのエビデンスベースデンティストリー入門「クリニカル・クエスチョン」編
シリーズ目次
第1回目:クリニカル・クエスチョンってなんだろう??
- 1.1.ブログの目的や若手歯科医師へのメリットを説明
- 1.2.クリニカルクエスチョンの重要性について触れる
第2回目:クリニカルクエスチョンの基本
- 2.1.クリニカルクエスチョンとは何か、その役割と意義を解説
- 2.2.PICO (Patient, Intervention, Comparison, Outcome) フレームワークの紹介
第3回目:クリニカルクエスチョンの作成方法
- 3.1.PICOフレームワークを用いたクリニカルクエスチョンの作成例
- 3.2.クリニカルクエスチョンを明確化するためのポイント
第4回目:クリニカルクエスチョンを用いたエビデンスベースの意思決定
- 4.1.クリニカルクエスチョンをもとにした文献検索の方法
- 4.2.検索結果を評価し、適切なエビデンスを選択する方法
第5回目:クリニカルクエスチョンの実践例
- 5.1.クリニカルケースをもとにしたクリニカルクエスチョンの実践例を紹介
- 5.2.エビデンスに基づく治療計画や意思決定の過程を解説
第6回目:コミュニケーションとクリニカルクエスチョン
- 6.1.患者とのコミュニケーションにクリニカルクエスチョンをどのように活用できるか
- 6.2.同僚や他の歯科医師との協力関係を築くためのクリニカルクエスチョンの活用
第7回目:クリニカルクエスチョンの継続的な学習と向上
- 7.1.クリニカルクエスチョン作成スキルの継続的な向上方法
- 7.2.学会や研究会でのクリニカルクエスチョンの活用
第8回目:まとめ
- 8.1.クリニカルクエスチョンの重要性と活用方法の再確認
- 8.2.若手歯科医師へのエールや励ましのメッセージ
第1回目:クリニカル・クエスチョンってなんだろう??
1.1. ブログの目的や若手歯科医師へのメリットを説明
歯科医師としてのキャリアの初期段階では、新しい知識や技術を吸収し、自分の臨床スキルを向上させることが重要です!
このブログでは、卒後5年目までの若手歯科医師を対象に、エビデンスベースデンティストリー(EBD)の基本である「クリニカル・クエスチョン」について解説します。ここで得られる知識とスキルを活用して、患者に最適な治療を提供するためのエビデンスに基づく意思決定ができるようになることが期待されます[1]。
1.2. クリニカルクエスチョンの重要性
クリニカルクエスチョンは、EBDの基本的な概念であり、歯科医師が臨床上の問題や疑問に対して、適切なエビデンスを見つけ、評価し、適用するための出発点です[2]。クリニカルクエスチョンを明確に定義することで、効率的に関連する情報や研究を検索し、その結果を適切に解釈し、治療計画や意思決定に反映させることが可能になります[3]。
クリニカルクエスチョンは、歯科医師が患者に適切な治療を提供するために役立つだけでなく、専門知識の向上や同僚とのコミュニケーションにも寄与します。このため、卒後5年目までの若手歯科医師にとって、クリニカルクエスチョンを理解し、活用することが重要になると思います。
最後に、クリニカルクエスチョンを活用して適切な研究やエビデンスを検索し、それを評価・適用するスキルも重要です。これにより、若手歯科医師は、自分の臨床経験や知識に基づく限定的な視点だけでなく、広範なエビデンスに基づく治療法の選択が可能となります。
さらに勉強したい先生に向けての参考文献:
[1] Sackett, D. L., Rosenberg, W. M., Gray, J. A., Haynes, R. B., & Richardson, W. S. (1996). Evidence-based medicine: what it is and what it isn’t. BMJ, 312(7023), 71-72.
[2] Richardson, W. S., Wilson, M. C., Nishikawa, J., & Hayward, R. S. (1995). The well-built clinical question: a key to evidence-based decisions. ACP Journal Club, 123(3), A12-A12.
[3] Ebell, M. H., Siwek, J., Weiss, B. D., Woolf, S. H., Susman, J., Ewigman, B., & Bowman, M. (2004). Strength of recommendation taxonomy (SORT): a patient-centered approach to grading evidence in the medical literature. American Family Physician, 69(3), 548-556.
[4] Schardt, C., Adams, M. B., Owens, T., Keitz, S., & Fontelo, P. (2007). Utilization of the PICO framework to improve searching PubMed for clinical questions
それぞれの論文の要約
[1] Sackett, D. L., Rosenberg, W. M., Gray, J. A., Haynes, R. B., & Richardson, W. S. (1996). Evidence-based medicine: what it is and what it isn’t. BMJ, 312(7023), 71-72.
この論文は、エビデンスベースメディシン(EBM)の定義と概念を明確にすることを目的としています。著者らは、EBMを「臨床的な専門知識、患者の価値観や期待、そして最高の利用可能なエビデンスを統合する科学的アプローチ」と定義しています。
また、EBMは限定的な経験や意見に依存する従来の医療とは異なり、客観的なエビデンスに基づいた意思決定を促進すると述べています。
この論文は、EBDにおけるクリニカルクエスチョンの重要性を理解する上で有用な基本的な概念を提供しています。
[2] Richardson, W. S., Wilson, M. C., Nishikawa, J., & Hayward, R. S. (1995). The well-built clinical question: a key to evidence-based decisions. ACP Journal Club, 123(3), A12-A12.
本論文では、クリニカルクエスチョンの重要性とその構成要素について解説しています。著者らは、クリニカルクエスチョンがエビデンスベースの意思決定において重要な役割を果たすと指摘し、PICO(Patient/Population, Intervention, Comparison, Outcome)というフレームワークを紹介しています。このフレームワークを用いることで、歯科医師は効果的にエビデンスを探索し、評価し、適用することができると著者らは説明しています。
[3] Ebell, M. H., Siwek, J., Weiss, B. D., Woolf, S. H., Susman, J., Ewigman, B., & Bowman, M. (2004). Strength of recommendation taxonomy (SORT): a patient-centered approach to grading evidence in the medical literature. American Family Physician, 69(3), 548-556.
本論文では、Strength of Recommendation Taxonomy(SORT)というエビデンスの評価方法を提案しています。SORTは、臨床的な意思決定においてエビデンスの品質を評価するための患者中心のアプローチであり、研究デザインや結果の一貫性、効果の大きさなどの要素を考慮して、A、B、Cの3つのグレードに分類します。
Aグレードは、高品質のエビデンスであり、Bグレードは、中程度の品質のエビデンス、そしてCグレードは、低品質のエビデンスを示しています。
著者らは、この分類法を使用することで、歯科医師や他の医療専門家が研究やエビデンスを適切に評価し、患者に対する治療の選択や推奨に反映させることができると説明しています。SORTは、エビデンスベースデンティストリーにおいても、エビデンスの評価に役立つツールとして利用されることが期待されます。
[4] Schardt, C., Adams, M. B., Owens, T., Keitz, S., & Fontelo, P. (2007). Utilization of the PICO framework to improve searching PubMed for clinical questions. BMC Medical Informatics and Decision Making, 7(1), 16.
この論文では、PICOフレームワークを用いたPubMedの検索方法の有用性を検証しています。
著者らは、PICOフレームワークに基づいて検索語を選択することで、PubMedでの検索結果の精度と効率が向上することを示しています。
また、著者らは、PICOフレームワークを使用することで、歯科医師や他の医療専門家が迅速かつ効果的に関連するエビデンスにアクセスできると述べています。これにより、エビデンスベースデンティストリーにおける適切な治療法の選択や意思決定が円滑になることが期待されます。
第2回目:クリニカルクエスチョンの基本
2.1 クリニカルクエスチョンとは何か、その役割と意義を解説
クリニカルクエスチョンは、患者の治療や診断に関する疑問や問題を明確に表現するための具体的な質問です。エビデンスベースデンティストリー(EBD)では、クリニカルクエスチョンは重要な役割を果たしており、適切なエビデンスを効率的に検索し、評価し、適用するための基盤となります[2]。
クリニカルクエスチョンの意義は、治療の質を向上させるために最新の科学的エビデンスを活用することができる点にあります。従来の治療法や自分の経験にのみ依存するのではなく、客観的なエビデンスに基づいた最適な治療法を選択することが可能になります[1]。また、クリニカルクエスチョンは、同僚や他の専門家とのコミュニケーションのための共通言語を提供し、チームワークや専門的な意見交換が円滑になります[2]。
2.2 PICO (Patient, Intervention, Comparison, Outcome) フレームワークの紹介
PICOフレームワークは、クリニカルクエスチョンを効果的に構築するための有用なツールです。PICOは、以下の4つの要素から構成されています[2]。
- Patient/Population (患者/対象集団): 質問の対象となる患者や集団の特徴
- Intervention (介入): 検討する治療法、診断方法、予防策など
- Comparison (比較): 比較対象となる他の治療法、診断方法、予防策など
- Outcome (アウトカム): 介入や比較の効果を評価するための結果指標
PICOフレームワークを用いてクリニカルクエスチョンを明確化することで、適切なエビデンス
を効率的に検索し、評価し、適用することができます[2]。具体的には、PICOフレームワークに基づいて選択された検索語を使用することで、データベース(例えばPubMed)での検索結果の精度と効率が向上します[4]。
例えば、歯科インプラント治療における即時荷重と遅延荷重の違いについて知りたい場合、次のようにPICOフレームワークを用いてクリニカルクエスチョンを立てることができます。
- P: 歯科インプラント治療を受ける患者
- I: 即時荷重
- C: 遅延荷重
- O: インプラントの成功率や骨結合の品質
このクリニカルクエスチョンは、「歯科インプラント治療を受ける患者において、即時荷重と遅延荷重の違いは、インプラントの成功率や骨結合の品質にどのような影響を与えるか?」という形で表現できます。この質問に基づいてエビデンスを検索し、評価し、適用することで、患者に最適な治療法を選択することが可能になります。
PICOフレームワークは、歯科医師がエビデンスベースデンティストリーを実践する上で非常に役立つツールです。クリニカルクエスチョンを明確に立てることで、最新の科学的エビデンスに基づいた最適な治療法を選択し、患者の治療の質を向上させることが期待されます。
参考文献:
[1] Sackett, D. L., Rosenberg, W. M., Gray, J. A., Haynes, R. B., & Richardson, W. S. (1996). Evidence-based medicine: what it is and what it isn’t. BMJ, 312(7023), 71-72.
[2] Richardson, W. S., Wilson, M. C., Nishikawa, J., & Hayward, R. S. (1995). The well-built clinical question: a key to evidence-based decisions. ACP Journal Club, 123(3), A12-A12.
[4] Schardt, C., Adams, M. B., Owens, T., Keitz, S., & Fontelo, P. (2007). Utilization of the PICO framework to improve searching PubMed for clinical questions. BMC Medical Informatics and Decision Making, 7(1), 16.
第3回目:クリニカルクエスチョンの作成方法
3.1 PICOフレームワークを用いたクリニカルクエスチョンの作成例
PICOフレームワークを用いてクリニカルクエスチョンを作成する例を以下に示します。ここでは、フッ化物塗布の効果について考えてみましょう。
- Patient/Population (患者/対象集団): う蝕予防が必要な成人患者
- Intervention (介入): フッ化物塗布の使用
- Comparison (比較): フッ化物を含まない基剤の使用
- Outcome (アウトカム): う蝕の発生率の低減
これに基づいてクリニカルクエスチョンは、「う蝕予防が必要な成人患者において、フッ化物の使用は、フッ化物を含まない物に比べて、う蝕の発生率を低減するか?」となります[5]。
3.2 クリニカルクエスチョンを明確化するためのポイント
クリニカルクエスチョンを明確化する際には、以下のポイントに注意してください。
- 質問の背景と目的を明確にする: 質問の背景や目的を明確にすることで、より具体的で有益なクリニカルクエスチョンを立てることができます[6]。
- 質問の範囲を絞る: 質問の範囲が広すぎる場合、適切なエビデンスを見つけることが難しくなります。質問の範囲を絞り、特定の患者や状況に焦点を当てることが重要です[2]。
- PICO要素を明確に定義する: PICOフレームワークの各要素を明確に定義し、具体的な検索語を特定することで、エビデンスの検索が容易になります[4]。
これらのポイントに注意してクリニカルクエスチョンを立てることで、エビデンスベースデンティストリーの実践に役立つ質問が作成できます。適切なクリニカルクエスチョンを立てることで、エビデンスの検索や評価がスムーズに進み、患者への適切な治療選択につながります。
まとめとして、クリニカルクエスチョンは、歯科医師がエビデンスベースデンティストリーを実践する上で重要なスキルです。PICOフレームワークを利用して、質問を明確化し、エビデンスの検索や評価を効率的に行うことができます。
若手歯科医師は、卒後5年目までの間にクリニカルクエスチョンを立てる習慣を身に付けることで、患者に最適な治療を提供することが可能になります。
参考文献:
[1] Sackett, D. L., Rosenberg, W. M., Gray, J. A., Haynes, R. B., & Richardson, W. S. (1996). Evidence-based medicine: what it is and what it isn’t. BMJ, 312(7023), 71-72.
[2] Richardson, W. S., Wilson, M. C., Nishikawa, J., & Hayward, R. S. (1995). The well-built clinical question: a key to evidence-based decisions. ACP Journal Club, 123(3), A12-A12.
[4] Schardt, C., Adams, M. B., Owens, T., Keitz, S., & Fontelo, P. (2007). Utilization of the PICO framework to improve searching PubMed for clinical questions. BMC Medical Informatics and Decision Making, 7(1), 16.
[5] Marinho, V. C., Worthington, H. V., Walsh, T., & Clarkson, J. E. (2013). Fluoride varnishes for preventing dental caries in children and adolescents. Cochrane Database of Systematic Reviews, (7).
[6] Ely, J. W., Osheroff, J. A., Ebell, M. H., Chambliss, M. L., Vinson, D. C., Stevermer, J. J., & Pifer, E. A. (2002). Obstacles to answering doctors’ questions about patient care with evidence: qualitative study. BMJ, 324(7339), 710.
第4回目:クリニカルクエスチョンを用いたエビデンスベースの意思決定
4.1.クリニカルクエスチョンをもとにした文献検索の方法
クリニカルクエスチョンをもとに、適切な文献を検索する方法は非常に重要です。PICOフレームワークを用いることで、質問に関連するキーワードを特定し、これを利用して検索エンジンやデータベースで文献を探すことができます[4]。
PubMedは、生物医学分野の論文を検索するための優れたデータベースです。PICOフレームワークに基づいたキーワードを入力することで、関連性の高い論文を効率的に見つけることができます[4]。また、Cochrane LibraryやDentistry & Oral Sciences Sourceなど、歯科医学に特化したデータベースも利用できます。
検索フィルターを使用することで、検索結果を絞り込むことができます。例えば、ランダム化比較試験(RCT)やシステマティックレビューのみを対象にすることで、質の高いエビデンスを効率的に見つけることができます。
4.2.検索結果を評価し、適切なエビデンスを選択する方法
検索結果が得られたら、それらを評価し、適切なエビデンスを選択する必要があります。まず、タイトルと抄録を読んで、質問に関連する論文であるかどうかを確認します。次に、以下の基準に基づいて、論文の質を評価します。
- 研究デザイン: RCTやシステマティックレビューは、高いレベルのエビデンスを提供する可能性があります[1]。
- 被験者数: 大規模な研究は、より信頼性のある結果を提供することができます。
- 無作為化とブラインド化: これらの手法は、バイアスを減らし、より信頼性のある結果を得るために重要です[1]。
- 結果の一貫性: いくつかの研究が同様の結果を報告している場合、そのエビデンスはより信頼性があります。
- 統計的有意性: p値や信頼区間など、統計的な指標を評価することで、結果が偶然の産物でないことを確認できます。
これらの基準に基づいて、適切なエビデンスを選択し、その結果を患者ケアに適用します。しかし、エビデンスを適用する際には、患者の個別の状況やニーズを考慮することが重要です[1]。
例えば、Marinhoらのシステマティックレビューでは、フッ化物塗布が子供や思春期の患者においてう蝕予防効果があることが報告されています[5]。このエビデンスをもとに、患者にフッ化物塗布の適用を検討することができます。
しかし、患者によってはフッ化物アレルギーや特定の状況がある場合、その治療法が適切でないこともあります。そのため、エビデンスを適用する際には、患者とコミュニケーションを取り、適切な治療法を選択することが重要です。
エビデンスベースデンティストリーは、最善のエビデンスを活用して患者ケアを向上させることを目的としています[1]。クリニカルクエスチョンを効果的に作成し、それに基づいて適切な文献を検索・評価することで、若手歯科医師は患者に最適な治療法を提供することができます。
参考文献
[1] Sackett, D. L., Rosenberg, W. M., Gray, J. A., Haynes, R. B., & Richardson, W. S. (1996). Evidence-based medicine: what it is and what it isn’t. BMJ, 312(7023), 71-72.
[2] Richardson, W. S., Wilson, M. C., Nishikawa, J., & Hayward, R. S. (1995). The well-built clinical question: a key to evidence-based decisions. ACP Journal Club, 123(3), A12-A12.
[4] Schardt, C., Adams, M. B., Owens, T., Keitz, S., & Fontelo, P. (2007). Utilization of the PICO framework to improve searching PubMed for clinical questions. BMC Medical Informatics and Decision Making, 7(1), 16.
[5] Marinho, V. C., Worthington, H. V., Walsh, T., & Clarkson, J. E. (2013). Fluoride varnishes for preventing dental caries in children and adolescents. Cochrane Database of Systematic Reviews, (7).
[6] Ely, J. W., Osheroff, J. A., Ebell, M. H., Chambliss, M. L., Vinson, D. C., Stevermer, J. J., & Pifer, E. A. (2002). Obstacles to answering doctors’ questions about patient care with evidence: qualitative study. BMJ, 324(7339), 710.
第5回目 クリニカルクエスチョンの実践例
5.1.クリニカルケースをもとにしたクリニカルクエスチョンの実践例を紹介
例として、患者Aさんは40歳の男性で、初診時に小臼歯部の虫歯が見つかりました。Aさんは審美性を重視するため、どのような治療が最適か悩んでいます。この場合のクリニカルクエスチョンは以下のようになります。
P (Patient):40歳の男性、前歯部の虫歯
I (Intervention):従来のアマルガム詰め物
C (Comparison):審美性の高いコンポジットレジン詰め物
O (Outcome):長期的な審美性と機能の維持
このクリニカルクエスチョンをもとに、適切な文献を検索しましょう。
5.2.エビデンスに基づく治療計画や意思決定の過程を解説
PubMedなどのデータベースを用いて、クリニカルクエスチョンに関連する文献を検索します。例えば、”dental amalgam”、”composite resin”、”aesthetics”、”long-term outcomes”といったキーワードを使用して検索できます。検索結果から、以下のような論文を見つけました。
[7] Hickel, R., & Brüshaver, K. (2000). Clinical Longevity of Direct Restorations for Carious Lesions: A Meta-analysis. Journal of Adhesive Dentistry, 2(4), 281-294.
[8] da Rosa Rodolpho, P. A., Cenci, M. S., Donassollo, T. A., Loguercio, A. D., & Demarco, F. F. (2011). A clinical evaluation of posterior composite restorations: 17-year findings. Journal of Dentistry, 39(4), 295-302.
[9] Opdam, N. J., Bronkhorst, E. M., Roeters, J. M., & Loomans, B. A. (2007). A retrospective clinical study on longevity of posterior composite and amalgam restorations. Dental Materials, 23(1), 2-8.
これらの論文を読んで、アマルガム詰め物とコンポジットレジン詰め物の長期的な審美性と機能の維持に関するエビデンスを比較検討します。
[7]のメタアナリシスでは、アマルガム詰め物とコンポジットレジン詰め物の臨床的長寿命が比較されています。結果として、コンポジットレジン詰め物の方が審美性が高く、機能性もアマルガム詰め物と同等であることが示されました。
[8]の研究では、17年間の臨床評価をもとに、コンポジットレジン詰め物の長期的な性能が報告されています。この研究でも、コンポジットレジン詰め物は審美性が高く、機能的にも十分であることが示されました。
[9]の研究では、アマルガム詰め物とコンポジットレジン詰め物の後歯部修復の長寿命が比較されています。この研究結果も、両者の機能性に大きな差はなく、審美性に関してはコンポジットレジン詰め物が優れていることが示されました。
これらのエビデンスに基づき、患者Aさんに対しては、審美性を重視することから、コンポジットレジン詰め物が適切であると判断できます。治療計画を立てる際に、このようにクリニカルクエスチョンを用いてエビデンスを検討することで、患者に適切な治療を提案し、意思決定の過程を透明化することができます。
まとめとして、クリニカルクエスチョンを活用することで、エビデンスベースデンティストリーに基づく治療の提案や意思決定が容易になります。
第6回目: コミュニケーションとクリニカルクエスチョン
6.1 患者とのコミュニケーションにクリニカルクエスチョンをどのように活用できるか
クリニカルクエスチョンは、患者とのコミュニケーションにも役立ちます。患者の治療計画を決定する際、患者の希望やニーズを考慮し、それに応じたエビデンスに基づく治療方法を提案できます。
PICOフレームワークを用いてクリニカルクエスチョンを明確化することで、患者の理解が深まり、治療へのコミットメントが向上することが期待できます[10]。
6.2 同僚や他の歯科医師との協力関係を築くためのクリニカルクエスチョンの活用
クリニカルクエスチョンは、同僚や他の歯科医師との協力関係を築く際にも有用です。診療チーム内でクリニカルクエスチョンを共有し、エビデンスに基づく治療についてディスカッションすることで、チームの知識やスキルが向上し、より適切な治療が提供できるようになります[11]。
また、[12]によれば、歯科医師同士がクリニカルクエスチョンを共有することで、エビデンスベースデンティストリーの普及が促進されるとされています。他の歯科医師とのネットワークを通じて、最新のエビデンスや治療技術を共有し、互いの知識やスキルを向上させることができます。
まとめとして、クリニカルクエスチョンを活用することで、患者とのコミュニケーションが円滑になり、診療チーム内や他の歯科医師との協力関係を築くことが容易になります。若手歯科医師の皆さんも、日々の診療でクリニカルクエスチョンを用いたエビデンスベースデンティストリーを実践し、より質の高い治療を提供するよう心がけましょう。エビデンスに基づく治療は、患者の満足度を向上させるだけでなく、歯科医師自身のプロフェッショナルな成長にも寄与します。
最後に、クリニカルクエスチョンの活用は、歯科医師の教育や研修プログラムにも重要です。卒後研修や継続教育を受ける際には、エビデンスベースデンティストリーの考え方を念頭に置いて学ぶことが重要です。新しい知識や技術を身につけることはもちろんですが、それらをエビデンスに基づいて適用する能力を養うことも、若手歯科医師にとって不可欠です[13]。
参考文献:
[10] Dwamena, F., Holmes-Rovner, M., Gaulden, C. M., Jorgenson, S., Sadigh, G., Sikorskii, A., … & Olomu, A. (2012). Interventions for providers to promote a patient-centred approach in clinical consultations. Cochrane Database of Systematic Reviews, (12).
[11] Horsley, T., & Philibert, I. (2016). The Sharing Clinical Questions to Improve Evidence-Based Practice Project: a collaborative learning strategy for improving residents’ skills in asking clinical questions. Journal of Graduate Medical Education, 8(4), 585-590.
[12] Straus, S. E., Glasziou, P., Richardson, W. S., & Haynes, R. B. (2019). Evidence-based medicine: How to practice and teach EBM. Elsevier Health Sciences.
[13] Wong, G., Greenhalgh, T., & Pawson, R. (2010). Internet-based medical education: a realist review of what works, for whom and in what circumstances. BMC Medical Education, 10(1), 12.
第7回目:クリニカルクエスチョンの継続的な学習と向上
7.1.クリニカルクエスチョン作成スキルの継続的な向上方法
クリニカルクエスチョンの作成スキルを継続的に向上させるためには、日々の診療で疑問に思ったことや新しい症例に出会った際に、積極的にクリニカルクエスチョンを立て、適切なエビデンスを探す習慣を身につけましょう。また、PICOフレームワークを用いて質問を明確化することが重要です[2]。定期的に自身の質問に対するアプローチを振り返り、改善点を見つけることも効果的です。
さらに、オンライン上のリソースやデータベースを利用して、最新のエビデンスにアクセスする方法を学ぶことが重要です。これにより、迅速かつ効率的に質の高い情報を入手することができます[4]。
7.2.学会や研究会でのクリニカルクエスチョンの活用
学会や研究会では、他の歯科医師や研究者と意見交換する機会があります。このような場では、自分のクリニカルクエスチョンを共有し、他者からのフィードバックや意見を得ることで、より適切な質問やエビデンスを見つけることができます[6]。また、他の歯科医師がどのようなクリニカルクエスチョンを立てているかを知ることで、自身の質問作成スキルの向上につながります。
学会や研究会でプレゼンテーションを行う際には、クリニカルクエスチョンを明確に提示し、どのようなエビデンスを用いて結論に至ったかを説明することで、他者にも理解しやすい発表ができます。このような活動を通じて、クリニカルクエスチョンのスキル向上だけでなく、エビデンスベースデンスデンティストリーの普及にも貢献できます。
また、学会や研究会でのネットワーキングを活用し、他の歯科医師や研究者と連携することで、クリニカルクエスチョンに関する知識や経験を共有することができます。このような情報交換は、自身の疑問解決に役立つだけでなく、新たな研究課題や共同研究のアイデアを生み出すこともあります。
さらに、学会や研究会に参加することで、エビデンスベースデンティストリーに関する最新の研究成果や知見に触れることができ、自分の臨床に活かすことができます。これにより、より適切な治療計画や意思決定を行うことが可能になります。
最後に、クリニカルクエスチョン作成スキルを継続的に向上させることは、自分自身の専門知識や技術を磨くだけでなく、患者さんへの最善の治療提供にもつながります。若手歯科医師の皆さんも、エビデンスベースデンティストリーとクリニカルクエスチョンを意識して、日々の診療に取り組んでみてください。
参考文献:
[1] Sackett, D. L., Rosenberg, W. M., Gray, J. A., Haynes, R. B., & Richardson, W. S. (1996). Evidence-based medicine: what it is and what it isn’t. BMJ, 312(7023), 71-72.
[2] Richardson, W. S., Wilson, M. C., Nishikawa, J., & Hayward, R. S. (1995). The well-built clinical question: a key to evidence-based decisions. ACP Journal Club, 123(3), A12-A12.
[4] Schardt, C., Adams, M. B., Owens, T., Keitz, S., & Fontelo, P. (2007). Utilization of the PICO framework to improve searching PubMed for clinical questions. BMC Medical Informatics and Decision Making, 7(1), 16.
[6] Ely, J. W., Osheroff, J. A., Ebell, M. H., Chambliss, M. L., Vinson, D. C., Stevermer, J. J., & Pifer, E. A. (2002). Obstacles to answering doctors’ questions about patient care with evidence: qualitative study. BMJ, 324(7339), 710.
第8回目.「クリニカル・クエスチョン」まとめ
若手歯科医師の道しるべ! 卒後5年目までのエビデンスベースデンティストリー入門「クリニカル・クエスチョン」編の最後に、改めてクリニカルクエスチョンの重要性と活用方法を再確認しましょう。
まず、クリニカルクエスチョンはエビデンスベースデンティストリーにおいて、適切な治療計画や意思決定を行うために不可欠なスキルです。PICOフレームワークを活用して明確なクリニカルクエスチョンを立てることで、効率的に文献検索ができ、適切なエビデンスに基づいた治療を提供することが可能になります[1][2]。
また、患者さんとのコミュニケーションや同僚との協力関係を築く上でも、クリニカルクエスチョンが重要な役割を果たします[6]。継続的な学習を通じて、クリニカルクエスチョン作成スキルを向上させることが、自身の専門性の向上や患者さんへの最善の治療提供につながります。
若手歯科医師の皆さん、卒後5年目を迎えるにあたり、エビデンスベースデンティストリーとクリニカルクエスチョンを積極的に取り入れ、自身の診療に活かしていただきたいと思います。日々の診療において患者さんと向き合い、臨床上の疑問に答えることは大変ですが、クリニカルクエスチョンを活用することで、より適切な治療を提供できることでしょう。
最後に、これからもエビデンスベースデンティストリーの考え方を大切にし、常に新しい知識を求め、患者さんに寄り添った診療を心がけてください。皆さんが成功する歯科医師になることを心から応援しています。
参考文献:
[1] Sackett, D. L., Rosenberg, W. M., Gray, J. A., Haynes, R. B., & Richardson, W. S. (1996). Evidence-based medicine: what it is and what it isn’t. BMJ, 312(7023), 71-72.
[2] Richardson, W. S., Wilson, M. C., Nishikawa, J., & Hayward, R. S. (1995). The well-built clinical question: a key to evidence-based decisions. ACP Journal Club, 123(3), A12-A12.
[6] Ely, J. W., Osheroff, J. A., Ebell, M. H., Chambliss, M. L., Vinson, D. C., Stevermer, J. J., & Pifer, E. A. (2002). Obstacles to answering doctors’ questions about patient care with evidence: qualitative study. BMJ, 324(7339), 710.
今回のブログで、クリニカルクエスチョンの重要性やその活用方法についてみてきました。
これらの知識をもって、若手歯科医師の皆さんには、診療の現場でクリニカルクエスチョンを活用して、エビデンスに基づいた治療を提供し続けていただくことを期待しています。
歯科医師としてのキャリアの初期段階である卒後5年目までに、クリニカルクエスチョンやエビデンスベースデンティストリーについて理解し、実践することが、今後の専門性向上や患者さんへの貢献に繋がります。
学会や研究会に参加し、同僚や先輩歯科医師と情報交換を行うことで、自身の知識やスキルを磨くことができます。
どんな臨床上の疑問に遭遇しても、エビデンスベースデンティストリーの考え方を大切にし、患者さんに寄り添った診療を目指してほしいと思います。
このブログを読んだ皆さんが歯科医師として成長し、患者さんの健康に寄与する姿を見ることが、私にとって何よりの喜びです。
これからも、一人ひとりの患者さんのために、そして歯科医師としてのキャリアを築くために、クリニカルクエスチョンやエビデンスベースデンティストリーを大切にし、精進していただくことを願っています。
最後に、皆さんの今後の活躍を心から応援しています。頑張ってください!そしてもしEBMを実践したい先生はぜひ志結会で一緒に働きましょう!楽しい歯科臨床ライフを送ることができます。