理事長ブログ
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水俣条約から考える、歯科材料と環境への責任
こんにちは。医療法人志結会おざき歯科医院、理事長の尾崎亘弘です。
歯科材料を選ぶとき、先生方は何を考えますか?治療する歯の状態、材料の性質、扱い方、費用。そこに、使った後はどこへ行くのか、という問いを加えてみたいと思います。
今回は、水銀に関する水俣条約を入り口に、歯科医療と環境への責任を考えます。地域で診療する先生方、材料を届ける企業の皆様と共有したいテーマです。
1.国際的な合意を、正確に読む
国連環境計画は、2025年11月の水俣条約第6回締約国会議で、歯科用アマルガムを2034年までに段階的に廃止する附属書改正が採択されたと発表しました。[1]
条約事務局の説明では、2034年は製造・輸入・輸出の廃止時期として位置づけられ、患者の必要性に基づいて歯科医師が必要と判断する使用への例外も示されています。[2]
「世界で廃止へ」という見出しだけでは、対象となる行為や例外までは伝わりません。採択された内容、効力が生じる時期、国内での具体的な対応を分けて確認することが必要だと思います。
国際合意があるからといって、日本の診療室で今日から何が一律に禁止されたのかを、見出しだけで決めつけない。その慎重さは、患者様への説明でも大切にしたいですね。
ニュースの見出しと、公式資料の該当箇所を並べてみるのもよいと思います。何が決まり、何はまだ確認が必要なのか。読み取ったことを別の人に説明してもらうと、受け止め方の違いが見えてきます。患者様に渡す説明も、その確認を経て整えたいですね。
2.既存の詰め物を、どう説明するか
歯科用アマルガムは、水銀を含む充填材料です。ただし、患者様の口の中にある古い金属色の修復物を、見た目だけですべてアマルガムと呼ぶことは避けたいと思います。[3]
米国食品医薬品局は、状態がよく、下にむし歯がないアマルガム充填について、医学的な必要性がなければ除去・交換を勧めていません。除去に伴って健全な歯質を失うことや、一時的に水銀蒸気への曝露が増えることも説明しています。[3]
これは米国当局の情報であり、直接個々の患者様の診断と治療方針になるものではありません。
大切なのは、環境政策の方向性と、目の前の修復物を交換する必要性を分けて考えることです。
患者様がもしアマルガム禁止のニュースを見て不安を感じたら、まず何が気になったのかを伺う。修復物の種類や状態、治療の必要性を確認し、交換する場合もしない場合も、その理由を伝えたいですね。
不安を受け止めることと、不安だけを理由に処置を進めることは違います。結論を急がず、確認できたことから一緒に整理したいと思います。
3.診療室の外まで、材料を追いかける
少し広い視点で考えたいと思います。歯科医院における、環境への責任は、アマルガムという材料を変えたら終わり、という話ではないと私は考えます。購入、保管、使用、回収、処理という流れを、医院の中で説明できるでしょうか。
石膏の処理、医療廃棄物の処理など、誰が分類を確認し、どこへ引き渡すのか。
担当者が不在でも、確認先がわかる形になっているか。
一度、医院と取引先で確かめてみることを提案したいです。
ここで大切なのは、自己流の処理方法を増やさないことです。
製品の情報、適用されるルール、回収を担う事業者の条件を確認する。
わからない物を、普段のごみと同じ感覚で扱わない。その基本を共有したいと思います。
また、代替材料を検討する際も、臨床での使いやすさだけでなく、保管条件や廃棄の扱いを質問したいですね。
「環境にやさしい」という説明があれば、何をどの条件で評価したのか、根拠となる資料を確認する姿勢を持ちたいです。
4.企業との対話を、診療の質につなげる
材料を提供する企業の皆様には、製品の特徴に加えて、適切な取り扱いを学べる情報を期待しています。
歯科医院からも、現場で迷う点を具体的に伝えることができると思います。
使用後の扱いを新人にどう説明するか、情報が更新されたときに誰が受け取るか。こうした地道な相談も、歯科医療を支える協働ではないでしょうか。これらはマニュアル化されていることで安心できるところでもあります。
一方で、医院の中では、環境への配慮を患者様への説明と結びつけすぎない注意も必要です。とくにこれはトリートメントコーディネーターによる説明で大切なポイントかと考えます。
材料を変更する理由を伝えるときは、適応、利点、限界、費用など、その方の判断に必要なことを丁寧に説明したいと思います。
例えば、「この材料は環境に配慮しています」と伝えるだけでは、患者様には自分の治療との関係がわかりません。なぜその歯に適していると考えるのか、別の選択肢には何があるか。環境という言葉が、説明を省く理由にならないようにしたいです。
取り組みを評価するときも、交換した本数だけを成果にしない。確認先や手順を共有できたか、患者様の疑問に答えられたかを見たいと思います。
歯を治す仕事と、地域の環境を考える仕事。私たちの診療は、その両方につながっています。大きな国際合意を、自分たちの足元の確認へ。
材料を使う責任を、医院と業界で一緒に考え続けていきましょう。
引用・参考文献
[1] United Nations Environment Programme. Minamata Convention COP-6 agrees to end the use of dental amalgam by 2034. 2025年11月7日。本文。閲覧日:2026年10月15日。
[2] Secretariat of the Minamata Convention on Mercury. Intersessional work and Submissions for COP-7, Dental amalgam節。掲載年記載なし(2025年COP-6の決定を解説)。掲載ページ。閲覧日:2026年10月15日。
[3] U.S. Food and Drug Administration. Dental Amalgam Fillings. 掲載年記載なし。本文。閲覧日:2026年10月15日。