理事長ブログBlog

212023
日々のこと

マイクロバイオームの観点から観る歯周病、歯周治療への応用、その夢

私には夢があります。人間が、口腔内の細菌叢をコントロールできるようになり、歯周病の発症もコントロールできる世界を実現したい。一開業医ではありますが、この分野の研究に関わりたいと思っています。

歯周病は、多くの人々が抱える問題であり、口腔内のマイクロバイオームの研究は、新しい治療法の開発に役立つ可能性があります。マイクロバイオームとは、特定の環境に生息する微生物群の総体を指します[1]。歯周病は、歯周ポケット内の細菌が歯周組織に悪影響を与えることで進行します。歯周治療におけるマイクロバイオームの応用は、歯科医療の新たな分野として注目されています。

歯周病は、歯周ポケット内の細菌叢の不均衡が原因で発生します。健康な状態では、口腔内のマイクロバイオームは多様性があり、互いに競合しながら共存しています[2]。しかし、歯周病が進行すると、口腔内の細菌叢が不均衡になり、病原性のある細菌が優勢になります[3]。これにより、炎症や骨吸収が引き起こされ、歯周組織が破壊されます。

歯周治療において、従来の治療法は、スケーリングやルートプレーニングなどの機械的な方法や、抗生物質を用いた薬物療法が一般的でした。しかし、これらの治療法は、健康な細菌も影響を受けることがあり、長期的な効果が限定的であることが指摘されています[4]。そこで、マイクロバイオームを活用した新たな治療法が求められています。

マイクロバイオームを利用した歯周治療の一例として、プロバイオティクスが挙げられます。プロバイオティクスは、善玉菌として知られる健康に良い細菌を補給することで、口腔内の細菌叢のバランスを回復し、歯周病の改善を促します[5]。また、細菌叢の解析を通じて、個

々に適した治療法を選択するパーソナライズドメディシンも、マイクロバイオーム研究の進展により可能となりつつあります[6]。これにより、患者一人ひとりの口腔内の細菌叢を考慮した最適な治療法を提供することができるようになるでしょう。

さらに、マイクロバイオームを活用した予防法も開発されています。例えば、口腔内の善玉菌を増やすための食生活の改善や、口腔内環境を整えるためのオーラルケア製品の開発などが進められています[7]。これらの予防法は、歯周病の発症リスクを低減し、健康な口腔内環境を維持することに役立ちます。

これらのマイクロバイオーム研究に基づく歯周治療や予防法は、歯科医療の新たな分野として期待されており、今後さらなる研究が進められることで、歯周病に苦しむ患者に対するより効果的な治療法が開発されることが期待されています。

共感できる先生はいますか??もし、そんな未来を共に働きたい先生はぜひ一度、医院のメッセージボックスより僕まで連絡ください!!

 

興味のある先生への参考論文

[1] Turnbaugh PJ, et al. The human microbiome project. Nature, 449(7164), 804-810, 2007.

この論文では、マイクロバイオームとは何か、その研究がどのように行われているかについて紹介されています。人間のマイクロバイオームは非常に複雑で多様性に富んでおり、その解明が人間の健康や病気に役立つことが期待されています。特に、口腔内のマイクロバイオームは、歯周病をはじめとした口腔疾患の原因となる微生物の相互作用を理解する上で重要です。

[2] Dewhirst FE, et al. The human oral microbiome. Journal of Bacteriology, 192(19), 5002-5017, 2010.

Dewhirstらの論文では、健康な口腔内のマイクロバイオームが多様性があり、細菌群が競合しながら共存していることが示されています。このバランスが崩れると、歯周病をはじめとする口腔疾患が引き起こされる可能性があるため、マイクロバイオームのバランスを維持することが口腔健康の鍵となります。

 

[3] Hajishengallis G. Periodontitis: from microbial immune subversion to systemic inflammation. Nature Reviews Immunology, 15(1), 30-44, 2015.

Hajishengallisは、歯周病が病原性のある細菌の優勢によって引き起こされる炎症性疾患であることを説明しています。歯周病の進行に伴い、細菌叢が不均衡になり、炎症や骨吸収が起こります。これにより、歯周組織が破壊されることが示されています。

[4] Van Dyke TE. Pro-resolving mediators in the regulation of periodontal disease. Molecular Aspects of Medicine, 58, 21-36, 2017.

この論文では、従来の歯周治療法が健康な細菌も影響を受けることがあり、長期的な効果が限定的であることが指摘されています。この問題を克服するために、マイクロバイオームを活用した新たな治療法が求められています。

[5] Teughels W, et al. Probiotics and oral healthcare. Periodontology 2000, 48(1), 111-147, 2008.

この研究では、プロバイオティクスが歯周治療において有望な方法であることが示されています。プロバイオティクスは、健康に良い細菌を補給することで、口腔内の細菌叢のバランスを回復し、歯周病の改善を促します。

[6] Marsh PD, et al. Dental plaque as a biofilm and a microbial community – implications for health and disease. BMC Oral Health, 16(1), S7, 2016.

この論文では、細菌叢の解析を通じて、個々に適した治療法を選択するパーソナライズドメディシンが可能となることが述べられています。これにより、患者一人ひとりの口腔内の細菌叢を考慮した最適な治療法を提供することができるようになると考えられます。

[7] Kumar PS. Oral microbiota and systemic disease. Anaerobe, 24, 90-93, 2013.

この論文では、マイクロバイオームを活用した予防法が開発されていることが紹介されています。例えば、口腔内の善玉菌を増やすための食生活の改善や、口腔内環境を整えるためのオーラルケア製品の開発が進められています。これらの予防法は、歯周病の発症リスクを低減し、健康な口腔内環境を維持することに役立つことが示されています。

文責:

尾崎亘弘

医療法人志結会 理事長/おざき歯科医院 院長

日本歯周病学会認定医

日本歯科保存学会専門医

大阪大学歯学部附属病院招聘教員